気付けばアイオロスの大きな手が、私の背中を服の上からゆっくりと上下していた。
艶かしく、まるで焦らしているかのように、ゆっくり。
そして、その手が首元まで上がり、そのまま襟足の髪を掻き分けて、指先でそっと触れる。


――ビクッ!


素肌に感じたアイオロスの肌の熱さに、身体が勝手に反応した。
熱く長いキスで否応にも高揚していた身体だもの、感じない筈がない。
しかも、首筋が私の一番弱い部分だと知っていて、ワザと触れるか触れないかの絶妙な力加減で撫でてくる、なんて憎い人だろう。
なのに、アイオロスときたら私の真下で、まるで悪気のない笑顔を浮かべているのだから、余計に変な気分が膨らんでゾクリと感じてしまう。
腹が立つ程に。


「なぁ、アンディ。」
「何、よ……。」


先程の深く長いキスのせいで、霞みぼやける視界に、アイオロスの笑顔が眩しい。
邪気がないように見えるのに、甘ったるい色気を含んでいて。
そんな風に目を細められて見つめられたら、身体の奥が自然と蕩けてしまうのを、彼は知っているのだろうか?
きっと知っているに違いない。
知っているから、こんなにも効果的に、この媚薬にも似た笑顔を浮かべてみせるのだわ。


「ココでさ、シないか?」
「……は?」
「だからさ。ココで、シよう?」
「え? 何? や、アイオ、ロス……?」


彼の言った言葉の意味を理解出来なくて、私はパニックに陥った。
いや、実際は理解しているのだけど、心が理解を拒否している、それが正解。
だって、いきなり何を言い出すのよ、アイオロス。
酔っ払っているとはいえ、そんな、まさか本気で『ココ』で……?


いや、絶対に無理。
プライベートルームの中ですらない宮の真ん中だし、冬だし、夜だし、寒いし。
風通り良くてヒューヒューしてるし、床は石だし冷たいし。
何より、誰が、いつ通り抜けるか分からない場所だ。
そんな場面を目撃された日には、私、二度と聖域で生きていけないわ。


第一、そんなスリリングな愛など、私は求めていないもの。
マンネリだと言われようと、つまらないと言われようと、柔らかくて心地良いベッドで抱かれるのが一番、素敵で気持ちも良くて最高なの。
アイオロスは、いつもとっても素晴らしいから。
こんなところで致さなくたって、十分に満足させてもらってますから。


だから、ココは止めよう、ココは嫌。
ココでだけは勘弁して。
お願いだから、地に頭を擦り付けて拝むから、部屋に行こう、ベッドに行こう。
アイオロスがそこまで待てないなら、多少、狭くてもソファーの上だって良いわ、我慢する。
望むなら、今日はバスルームでも構わない。
泡風呂だろうと、シャワープレイだろうとドンと来い。


だから、ココだけは止めて、絶対に止めて!


しかし、私の願い虚しく、背中を辿っていたアイオロスの手が、スルスルとスカートの中へ入り込み、隆起した片方のなだらかな丘を下着越しに掴み上げた。
途端に、先程よりも大きな波が身体を走り、アイオロスの上で大きく跳ねてしまう。


その反応が嬉しいのだろう。
ニコッと笑ったと同時に、背中のファスナーを一気に下ろす、巧みで器用な手。
その甘く蕩ける笑顔にトクンと揺れた心でアイオロスに見惚れる毎に、隙を付いて手を進めるのだから性質が悪い。
慌ててアイオロスの身体の上から逃れようとした瞬間、強引に身体を返された。


――ゴツッ!


静けさの中に、鈍い音が響く。
頭を強かに石の床へ打ち付けたのだ、僅かに意識が遠退く。
それでも、アイオロスは悪びれもせず、逆に好機と見て私の纏う服を剥ぎ取っていくのが、霞んだ視界の中で分かった。
外気に晒される素肌が寒さに粟立つ。
なのに、触れる彼の手が異常に熱く感じる。





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