「アンディ、アンディっ!」


静かな宮内に反響して響くアイオロスの通る声。
肩を竦めつつ近寄ると、彼は宮の真ん中で大の字になって寝転がっていた。


「アイオロス、何してるの? 冷たくないの? 風邪ひいちゃうわよ?」
「この床、背中にヒヤリと冷たくて気持ち良いんだ。」


つまりは全身が熱くなるくらいに飲んだのねと、再び溜息が零れる。
呆れ顔で横から見下ろしていると、ちょいちょいと私を手招きするアイオロスの手。
私は呼ばれるままに彼の真横にペタリと座り込んだ。
フワリと床に広がるスカートの中、素肌に触れる石造りの床は、ゾクリと震えが走る程に冷たい。


「冷たい……。本当に風邪引くわ、アイオロス。」
「引かないさ。ほら、アンディ。」


手招きしていた手で、私の手を掴む。
いつものように加減する事もなく、その大きな手がギュッと強く握り締めてきた。
かなり痛い。
でも、握り締められたところから伝わって、全身まで熱くなってきそうな、そんな熱を持つ彼の手。


「凄く、熱いわ……。飲み過ぎよ、アイオロス。」
「仕方ないだろ? 悪いのはサガとカノンだ。」
「断れば良かったじゃない。」
「断ったら最後、異次元行きだ。俺がいなくなってしまったら、アンディはイヤだろ?」


確かに……。
そう思った事は心の奥に伏せる。
あの強かに酔っ払った二人からの絡み酒、断れば命の危険まではいかないとしても、身の危険は十分過ぎる程にあるだろう。
例え聖域の英雄と謳われるアイオロスとはいえ、だ。


「酔い……、醒ましてくれるか?」
「ん? 水でも持ってくる?」
「水はいらない。ほら、こうして――。」


交わす会話に気を取られて、油断した瞬間。
握り締められていた手を強く引かれた。
同時に、バランスを崩した身体は、寝そべったままのアイオロスの上に倒れ込む。
後はもう、彼の思うまま、思う壺。
待ってましたとばかりに彼の唇に私の唇が重なり、全力で濃厚に絡んでくる執拗なキスに捉えられた。


「んっ! ふ、う、んっ……。」


私の手を引いていた彼の手は、いつの間にか身体に回ってしっかりと抱え込み、反対の手は頭に伸びてガッチリと上から押さえてくる。
その力があまりにも強いものだから、重なった唇は押し潰されて息を吐く隙間もなくて。
アルコールの影響で乾ききったアイオロスの唇のせいで、私の唇まで切れてしまいそうだ。
いや、血の味がするから、もう切れてしまったに違いない。


上に乗っているのは私だというのに、どうして跳ね起きて逃れられないの?
私を押さえているのは、たった二本の腕なのに、暴れても、もがいても、どうしてこの腕から脱け出せないの?


強いアイオロスの力に、完全に捕まってしまった。
彼の口内から伝わるアルコールに酔っ払ってしまいそうだ。
酸欠の影響で、もう身体にも力が入らない。
暴れたくても身体が動かなくなってきた。


そして、貪るだけのキスが、しっとりと絡むキスに変わる。
上下の唇を辿る舌、切れた箇所を労わるように。
薄く開いた唇の隙間から進入した後は、先程の激しさに濡れた口内を、もう一度ゆっくりと味わっていく。
何度も何回もアイオロスと交わしているキスだもの、私にとって心地良い場所を、彼は知り尽くしているから。
迷いなく導いていくの、身体の奥から溢れ出てくる陶酔の世界へと。





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