ニューイヤーの花火の下で



「あ〜、久し振りに酔っ払っちゃったなぁ……。」


そう呟くアイオロスの足はふらついていて、時折、手を貸して上げなければ階段から落ちてしまいそうな様子だった。
アルコールの力で心持ち赤く染まった顔には、いつにも増して陽気な笑顔を浮かべて。
上を見たり下を見たり、前を見たり後ろを見たりしながら階段を下りていくものだから、私は心配で気が気じゃない。
教皇補佐ともあろう者が酒に酔って階段から転げ落ちて怪我をしたなんて事になったら、それこそ前代未聞の話だもの、それだけは避けなくちゃ。
私は隣のアイオロスに気付かれぬよう、小さく溜息を一つ吐いた。


数ヶ月振りに戻った聖域。
誰もが浮かれ騒ぐ年越しパーティー。
あの賑やか過ぎるくらいに騒がしいパーティー会場の喧騒が嘘のように、人馬宮へと戻る十二宮の階段は物静かだった。


後ろを振り返れば、遠く教皇宮から未だパーティーの熱気が立ち昇っている。
だけど、上を見上げれば、静かに佇む夜空に沢山の星達が瞬き、明日の満月を控えてプックリと膨れ上がった月は、少し重たげな身体でゆっくりと闇夜を渡っていて。
変わらない厳かな空気を纏う、この雰囲気に、「あぁ、聖域に帰ってきたんだわ。」と、やっと実感する私。


「おおお、やっと着いたぞ、アンディ。お待ちかねの我が家に到着〜。」


そんな感慨に耽る私の心など、まるで関係ないのよね。
酔ってフラフラとするアイオロスは、酔っ払い特有の軽い調子で言うと、嬉しそうに私を抱き寄せて、左の頬にお酒臭いキスを落とした。
次いで、アハハ! と笑いながら、人馬宮の入口へと走り出す。


一体、どれだけ飲んだのだろう。
いや、飲まされたのだろう。
酒豪と言っても良い程お酒に強いアイオロスが、こんなにも酔っ払った姿を見たのは久し振り。
いや、寧ろ初めてのような気もする。


「おおっ! 俺の宮の床は、こんなにも冷たかったのか! 気持ち良いな!」


――ヒタヒタヒタ。


気が付けば、少し前を進むアイオロスは、靴を脱ぎ捨て、裸足で薄暗い石造りの宮内を歩いていた。
両手で一足ずつ自分の靴を持ち、典型的な酔っ払いオヤジのように。
ちょっと、待って!
私の恋人は、こんな人じゃない筈!
そう思っても、目の前の現実は変わらない。
そこにいるのは、千鳥足で歩く陽気な酔っ払いが一人。


パーティーの途中、私がアイオロスの傍から離れた時。
彼は両サイドをサガとカノンの二人にガッチリと挟まれて、苦笑いを浮かべていたっけ。


「畜生、アイオロス。日本でアンディと楽しくやってきたんだろう? 俺なんか海の底で仕事漬けだぞ、羨ましい!」
「いや、俺もほぼ毎日仕事だったし……。」


――ゴポゴポゴポッ!


「私など来る日も来る日も書類と睨めっこだぞ。貴様など誕生日もクリスマスも、日本でアンディとよろしくしてたのだろう?」
「いや、まぁ、その……。なぁ?」
「羨ましいぞ! 羨まし過ぎる、アイオロス!」


――ゴポゴポゴポッ!


思い返せば、物凄い勢いで両側からワインを注がれていたわね。
あのペースでずっと飲んでいたなら、流石のアイオロスでも酔い潰れて仕方ないのかもしれない。
恐るべし、双子の僻みパワー。





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