アナベルはたまに、俺の訓練の様子を見に来る事がある。
真剣な表情で修練や後輩指南に励む俺の姿が格好良くて、ついつい見に来たくなるのだと、キミはそう言っていた。


「いつもニコニコ笑ってるアイオロスが、キリリと真剣な眼差しになって激を飛ばす姿を見ると、こう胸がキュンとするの。私の恋人は凛々しくて素敵だなぁって、見惚れちゃうのよね。」
「気のせいかな? 何だか、普段の俺は、顔の締りがないって言われてるような気が……。」
「気のせいよ。ふふっ。」


闘技場での手合わせの後、そんな会話をしながら、二人並んでのんびりと十二宮の階段を上っていく。
時に涼やかな風に吹かれながら、時に聖域を染める夕焼けを見ながら。
人馬宮へ辿り着くまでの道程は、穏やかでゆっくりとした時間をキミと過ごす、そんな貴重な時間だった。


だけど、今日。
人馬宮での仕事がなかなか終わらなかったのだろうキミは、修練中には間に合わず。
姿を見せたのは既に終了後、流れた汗を拭っていた時だった。


「ごめん、アイオロスッ! 遅くなっちゃった!」


そう言いながら、小走りに駆けてくるキミ。
だが、それは何故か俺がいるのとは反対の方へ向かっていた。
そして、キミが飛び付き抱き付いたのは、俺と良く似た後ろ姿の持ち主。


そう――。


「アナベル……。悪いが、俺は兄さんではないんだが……。」
「えっ?! あ、やだっ! ごめんね、アイオリア! タオル被ってたから、てっきりアイオロスだと思って……。」


困った顔をして振り向いたアイオリアは、心持ち恥ずかしそうに顔を赤くして。
キミも、抱き付いた相手がアイオリアと知るや否や、白い頬を真っ赤に染めて。


そりゃあ、俺とアイオリアを間違った事は、多少なりともショックだったが、しかし、俺達は似ているからな、体型も後ろ姿も。
タオルで髪が隠れていれば、髪色で判断出来ないから尚更だろう。
俺はクスッと小さく微笑みながら、向こう側で慌てている二人を眺めていた。
赤い顔した二人が向かい合い、気まずそうに俯いている姿は何だか滑稽だ。


だが、そう思えたのも束の間の事。
いつまでも赤い顔して俯き向き合っている二人に、何だか妙に苛々としたものを感じ始めている自分に気付く。
何だろうな?
こう思春期の少年少女のようなたどたどしさと言うのか。
そんな雰囲気が、まるで『初めて告白した少年と、それをOKした少女』の図のように見えてきて。


あ、このままではマズいな。
そう思った俺は、キミに気付かれぬ内に、闘技場を抜け出していた。
少し頭を冷やして、この苛立ちを止めなければ、何を仕出かすか分からない、そんな気がしたから。





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