――キシッ…。


身を屈めると、再びベッドが微かな軋みを上げる。
だが、一向に目覚める気配のないアナベルは、夢の世界を漂っているのか、気持ち良さそうに寝息を立てて眠り続けていた。


アナベルが人馬宮に泊まっている今夜は、俺にとって千載一遇のチャンスだった。
とても自制するなんて出来やしない。
気付けば、俺の足は自分の部屋から滑り出て、暗闇に飲まれたプライベートルームを、彼女の眠る部屋まで息を殺して歩いていた。


俺の両腕の下、見下ろすアナベルは、目を覚ます気配すらない。
俺は念願だった彼女の黒髪を、指と手でじっくりと何度も堪能し、それから、唇を降ろして甘い匂いのする髪に口付けた。


途端、百合の花のような髪の香りに、激しい目眩を感じた。
俺を誘う香りだ、これは。
甘い甘い蜜の香り、甘過ぎるくらいに俺を誘う香り。
そして、俺は鼻から取り込んだ香りを体内で反芻しては、また口付け、そして、香りを楽しむ事を繰り返して。
何度も唇を滑らせて髪の上を往復し、そのまま流れに任せて、髪が零れ掛かる白い頬にも唇を寄せた。


「ん、あっ……。」


柔らかな頬に触れた瞬間、また微かな反応を見せるアナベル。
顔を上げて暫く様子を伺ったが、目が覚めた訳ではないようだ。
俺は再び身を屈めると、キスの続きを再開する。
アナベルの黒髪と、その下に広がる白い頬にじっくりと唇を押し付ければ、柔らかでふっくらとした肌の感触に、ゾクリと甘い痺れが身体を走った。


そして、気付く。
俺が望んでいたのは、欲していたのは、『アナベルの髪』ではない、と。


その美しい髪をした『アナベル自身』を望んでいたのだ。
彼女の髪に触れ、そして、彼女自身にも触れたいと、彼女の全てを知りたいと望んでいた。
アナベルの華奢な身体を自分の腕に閉じ込め、その全てを堪能したい、隅から隅まで全部。
欲深な俺は、自身も気付かぬ内に、心の奥底で、そこまでを願っていたのだ。


「アナベル……。」


興奮に掠れた声で、その名前を呼んだ。
気付いてしまったからには、もう止まれなかった。
止まりたくなかったし、止まろうとも思わなかった。
ただ目の前で眠るアナベルの全部を欲している、それだけが心を支配し、身体の動きを支配していた。


――ギギッ……。


より大きい音でベッドが軋んでも、もう構わなかった。
彼女が目を覚まそうが、関係ない。
今はただ、思いのままに突き進むだけ。


「んんっ……。」


寝息を立てるアナベルの紅い唇に口付けて、その柔らかさを楽しむ。
口から息が出来ないからか、やや苦しそうに眉を寄せる表情が、より一層、俺を誘っているように映って、益々、心が熱く燃え上がった。
手は彼女の髪を離れ、頬から首のきめ細かな肌の滑らかさを感じ取りながら、ゆっくりと滑り落ちて。
辿り着いた指先が、触れた夜着の縁を掴むと、そっとそれを押し開いた。





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