温かく、そして、明るい室内へと入ると、直ぐにアンディの手を取った。
ツルリと細身の革手袋を脱がして、指を絡めてギュッと繋ぎ合わせる。
手袋をはめていたにも係わらず、その華奢な指先は冷たい。


「何? どうしたの、アイオロス。」
「何って、アンディと触れ合いたいだけ。」
「部屋まで我慢してよ、もう。」


ふわりと音もなくエレベーターの扉が開く。
繋いだ手を引っ張って、少し急いて二人、狭い空間の中へと入り込んだ。
ゆっくりと滑るようにエレベーターが上り始めると同時に、腕の中に彼女を抱き込めば、艶やかな髪の向こう側に、煌めき華やぐ世界が、徐々にただの光の海へと変わっていく。


次第に早まる心音。
ドキドキと煩く胸を叩く。
もう数え切れない程の夜を、アンディと共に越えているというのに、彼女と抱き合う時を思うと、未だ抑えようもなく胸が躍るのだ。
この先に待つ、甘い夜の行為を思い描く、ただそれだけで。


「待ち切れない、アンディ。キスしたい。」
「駄目よ、アイオロス。ほら……。」


俺の胸を押し返すアンディの背後、冷たいガラスの向こう側。
光の海が一面に広がり、狭い視界に滲み始めた頃。
『チン』という軽い音と共に、動きを止めたエレベーターが、再び音もなくふわりと扉を開けた。


「着いたわ。お部屋まで後少しなんだから、それくらい我慢して。」
「我慢出来ないと言ったら?」
「怒って城戸邸に帰っちゃうかもよ。」
「それは困る。」


女神は時折、俺達に妙に気を遣ってくれる。
城戸邸の一つ部屋に滞在しているとはいえ、日々の忙しさを思えば、恋人らしい時間も取れないのが現実。
しかも、今年のクリスマスは女神の仕事に同席した後、そのまま青銅連中の中に加わり、パーティーで大騒ぎ。
酔いと疲れで、その後のアンディとの楽しみを満喫する事すら出来ずにダウンしてしまうというガッカリ具合だ。
だからなのか、半日とはいえアンディと二人きりで年越しを過ごせるようにと、こんな素晴らしいホテルの部屋まで用意してくれた。


「見て、アイオロス。綺麗ね。」
「あぁ。」


部屋の扉を開くと、正面の窓の外に、エレベーターの中から見たのと同じ光の海が一面に広がっていた。
誰もが皆、新しい年を迎えた事を祝っているのか、今夜は常よりも光の量が多い。
窓辺へ近付き、煌めく世界を見下ろす。
未だ様々な色に変化しながら光る観覧車は、今夜は夜明けまで、その目映いイルミネーションを続けるらしかった。


「アイオロス、シャワー浴びてきたら?」
「アンディが先で良いよ。」
「でも、アイオロス、随分と寒がっていたじゃない。」
「俺は大丈夫。それより、アンディが風邪をひいたら大変だ。先に温まってくると良い。」
「そう?」


遠慮しながらも、アンディはシャワー室のガラス扉に手を掛けた。
程なくして、シャワーが床を打つ音がザーザーと響いてくる。
ダブルベッドに腰を掛け、部屋の角にあるシャワー室の方を見遣った。
ガラス扉は、中に人が入ると、曇りガラスに変化するらしく、今はもうアンディの姿は全く見えない。


不意に湧き上がった悪戯心。
そして、アンディに対する抑えようのない欲求。
このまま、アンディが出るのを待つのもつまらないし、そろそろ本当に我慢の限界が近い。
ならば、いっそ……。
そう思った時には、既に自分の服に手を掛け、それを逸る心で手早く脱ぎ捨てていた。





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