観覧車の光は消えず



見渡す世界には、アチコチに目映い光が散りばめられていた。
本来なら暗闇だけが支配する筈の景色は、煌びやかなイルミネーションに彩られ、華やかに滲む花を黒い世界のアチコチに咲かせている。
そして、それは今日という特別な日に、いつも以上の輝きとざわめきを伴って横たわっていた。


「風、強い。」
「流石に寒いな、日本の冬は。」
「場所が場所だしね。」


クスリと笑って俺を振り返るアンディの笑み。
寧ろ、俺にとっては彼女の姿の方が何よりも目映く見えて、俺は目をパシパシと瞬かせながら、アンディに微笑み返した。


ただ年が変わる、それだけの事なのに、この国の連中は、どうしてこうも浮かれはしゃぐのか、聖域の中の世界ばかりしか知らない俺には、正直、良く分からなかった。
だが、この数年、日本に滞在する事も増え、この国の文化に触れて分かってきた事がある。


「見て、カウントダウンが始まったわ。」
「お、凄いな、あの観覧車。カウントに合わせて、点滅の色が変わってる。しっかし、寒いな。風も強いし、凍えそうだ。」
「文句ばかりね、アイオロスは。中、入る?」
「いや、折角だし、カウントダウンが終わるまでは、ココにいよう。」


日本人がイベント好きなのは、恋人と二人で過ごす時間を、他にはない特別なものとして演出が出来るから。
ニューイヤー、バレンタイン、誕生日、そしてクリスマス。
最初こそ、あのはしゃぎようが馬鹿みたいだと、少しだけ冷めた目で見ていた俺だったのだが。
今では、すっかりそのお祭り騒ぎに馴染んでしまった。
アンディと一緒に、その特別な時間の魔力を何度か味わった今では。


『……サン・ニ・イチ、ゼロ! 新年明けましておめでとう御座います!』


眼下に見下ろす港沿いの公園から、大勢の人が集まるイベントの声が響く。
年が明けたのだ。
浮かれ騒ぐ歓声とざわめきが、遥か上のココまで届いてきた。


「A happy new year.大好きなアンディ。」
「ふふっ。今年も宜しく、アイオロス。」
「宜しく、か。俺は出来れば今直ぐにでも、ベッドの上で宜しくして欲しいな。」
「また、アイオロスはそういう事ばかり……。」
「だって、この寒さだ。身体が冷え切っててさ。ほら、アンディも。」


目映い光が滲む夜の闇に、アンディの艶やかな髪が風に踊る。
その髪ごと彼女を背後から抱き締めた。
防寒対策に着込んでいるとはいえ、その頬や首筋はヒヤリと冷たい。


今、俺達はグラードホテル・ベイサイドのテラスにあるカフェにいる。
普段、この季節、夜のこの時間には開いていないカフェだが、カウントダウンを祝う宿泊客のためにと、今夜だけ特別に開放されている。
それは、まぁ、良いのだが……。


港が近いから風は強いし、夜遅いという事もあって、身に沁みる程の寒さだ。
うっかり力を抜けば、ブルリと身体に震えが走る寒さ。
カウントダウンの、この華やかなイベントを上から眺めるという楽しみがなければ、こんな場所に下りてこようとは思わなかっただろうな。
輝くイルミネーションと煌びやかな観覧車。
夢幻かと思う光の幻想を上から見下ろす優越感に浸りながら、愛しい人と共に過ごす夜。


「新年も無事迎えられた事だし、そろそろ中に戻ろうか。」
「ん? もう良いのか?」
「だってアイオロス、身体、震えてるじゃない。そんなに寒いの苦手だった?」
「そんなヤワじゃない筈なんだけどな。日本が予想外に寒過ぎる。」


もう一度、眼下を見下ろせば、未だ続くお祝いイベントから若い男女の賑わう声が響いてくる。
この強く冷たい風を気にも留めず、良くあんなにはしゃげるものだ。
俺ならアンディと部屋の中で二人きり、互いを温め合いながら、幸せを噛みしめるのに。





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