沙織さんが連れてきてくれたボディーガードは、何と言うかその、激しくボディーガードらしくない人だった。
長身で逞しい身体付きは、鍛え上げられたものだって事は一目で分かるし、顔もそこらの男共よりはずっと良い。
でも、その態度と話し方、身に纏った雰囲気というべきものが、彼に『悪い男』の印象を与えているように思えてならなかった。


「沙織さん……。彼、本当にボディーガード? 私にはマフィアに思えてならないんだけど……。」
「大丈夫ですよ、アリアさん。デスマスクはあんな見た目ですが、腕は確かですし、仕事もきっちりこなします。」
「オイ。自分の部下を掴まえて、あンな見た目って、どういう事だ? ぁあ?」


大体、自分の上司に向かって、こんな口の利き方する人が、マトモな人物だとは思えない。
しかも、自信満々な割には、全くと言って良い程、やる気がないし。
こんな人に自分の命を預けて、本当に大丈夫なのだろうか?
返って危険なのでは?と思えるくらいに。


「俺の力は、いざって時のモンなんだよ。安売りはしねぇ。」
「そんな力、役に立たないわ。」
「さて、どうだろな? そン時になれば、嫌っていう程、分かるさ。俺に惚れんなよ、アリア。」
「間違っても惚れたりなんかしないわ、有り得ない。」
「ま、オマエがもう少し良い女になったら、俺の魅力も分かるだろうぜ。」
「はぁ? 何よ、それ。」


どこまで自信過剰なんだろうか。
傍にいれば、この物言いで苛々させられるし、魅力なんてどこにもありはしない。
全く、沙織さんは何でこんな男に私を任せたのだろう?
正直、自分が軽んじられているのではないかと、疑いたくもなった。


でも……。


彼、デスマスクが傍にいてくれるようになってから、何度か危ない場面を助けられた。
私一人では到底避けられなかっただろう危機を、彼は事前に察知し守ってくれた。
大きな口を叩くだけの事はある。
それでも、いまいち彼を信用し切れなかったのは、やはりその態度と厭味な物言いのせい。


「オマエ、バカか? 何、こんなトコに出てきてやがンだよ。命を狙われてンだぞ?」
「馬鹿とは何よ! 仕方がないでしょ、仕事なんだし!」
「あっそ。勝手にしやがれ。」


最低最悪の男。
沙織さんは、どうしてこんな男を部下としてつかっているのだろうかと、疑いたくもなる。
会社の女の子に色目は使うし、受付の子はデートに誘われたとはしゃいでいたし、この前なんか、社内で堂々とナンパしてたし。
この男、大事な時に女の子ばかり気にして役に立たなかったなら、どうしてくれよう?


あの時、冗談半分で、そう思った考えが、まさか現実になるなんて。
悪い夢であって欲しいと、私は祈りながら走った。
見通しの悪い暗闇の中、大事な時にいないアイツを恨みながら、ひたすら走った。





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