真横に座るデスマスク様に向かって奇声を上げ続けるシュラ様を、何とか宥めている間。
前方からヒシヒシと感じられる強い視線。
顔を上げれば、予想通り、羨ましげにコチラを見つめる、アイオロス様とサガ様のお二人と目が合う。


「……駄目、ですよ。」
「何故?」
「何故って、シュラ様は一度、手元から離すと、派手に暴れて手に負えません。ご存じでしょう?」
「それはまぁ、そうなのだが……。」


口では諦めの言葉を吐きつつも、手が猫ちゃんを触りたそうにワキワキと動いている。
アイオロス様に至っては、こっちへ来いと言わんばかりに両腕を広げ、抱き留める気満々の体勢。
でも、無理ですから。
大暴れされたら困りますから、私が。
という事なので、お二人には申し訳ないけれど、私はしっかりとシュラ様を腕の中で抱き直した。
シュラ様を離す気は毛頭ないですとの意思表示のつもりで。


「はぁ……。なら、せめてリアを……。」
「アイオロス。申し訳ないが、アイオリアが酷く怯えている。貴方には渡せない。」


見れば、それまで悠然とカミュ様の膝の上に座っていたアイオリア様が、アイオロス様が腕を伸ばした途端、カミュ様に縋るようにベッタリと貼り付いてしまったではないか。
そんなアイオリア様をしっかりと抱え、カミュ様は断固としてアイオロス様への譲渡を拒否している。
まぁ、あんな風に怯えているのを見れば、誰だってそうするでしょうけれど……。


「何故だ、リア?! 俺はお前の兄ちゃんだぞ! お前の事を一番に可愛がってやれるのは、この俺以外にいないだろう?!」
「お前の可愛がり方は、度を超している。もう少し相手を思いやらなければ、本気で嫌われるぞ、アイオロス。」
「意味が分からんぞ、サガ! 何故、全力で可愛がるのがいけないんだ?! 血を分けた兄弟だというのに!」
「それが暑苦しいンだよ、テメェは。程々にしとかねぇと、本気で弟に嫌われンぞ。」


流石はデスマスク様、見事な一刀両断。
誰もが心に思ったところで、口に出しては言えない事を、あっさりバッサリと……。
がっくり肩を落としたアイオロス様の、あの意気消沈した様子では、暫くは立ち直れなさそう。


「アイオロス、気持ちは分かるが、猫にかまけるのは後にしろ。で、アフロディーテの様子はどうなんだ、アンヌ?」
「あ、はい。あのご様子では、暫くは起きてこないと思います。何しろ、アイオリア様が大声で鳴こうが、シュラ様が、その……、足蹴にしようが、目が覚める気配もありませんでしたので。」


項垂れたままのアイオロス様を窘めたサガ様が、ご自身も諦め切れない瞳で、私の腕の中のシュラ様を眺めつつ、それでも何とか話を進めようとする。
どうやら、粗方の事情はデスマスク様とカミュ様から聞いているみたいで、予想通りのアフロディーテ様による暴挙に、彼等も大きな溜息が止められない様子だった。


「一日で効果が切れるというのなら、このまま夕方まで放っておいても問題ないのだろうが……。」
「でもよぉ。エッチ薬を失敗して、猫化しちまったンだぞ。ンな予想外の事が起きたンなら、効果だってホントに一日で切れるのか、怪しいトコだと思うぜ。」
「確かに……。」


そもそも薬自体が失敗作なのだから、効果の持続時間だって信用が出来ない。
皆が、う〜んと唸り声を上げて頭を捻る中。
くわわぁっと、暢気なシュラ様の欠伸の声が響いた。





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