9.猫と英雄と苦労人



目の前を勝ち誇った様子で悠然と歩くシュラ様を、私は背後からヒョイと抱き上げた。
これ以上、好き勝手されて、この宮内をメチャメチャにされては困るもの。
放っておけば、神聖な十二宮であろうと、お構いなしにゴミ屋敷に変えてしまうシュラ様の事。
何をするにも躊躇いがない。
という訳で、シュラ様のこれ以上の暴挙を阻止するには、しっかりと抱っこしているのが一番。


ついでに、と言っては何だけれども、空いた左手にアイオリア様も抱き上げて、私はデスマスク様とカミュ様の待つリビングへと戻った。
アイオリア様一人ならば、とても良い子で問題などない。
でも、シュラ様に悪影響を受けると、とんでもない事を起こしかねないもの。
今日だって、そう。
シュラ様と一緒に部屋の中で大暴れしてみたり、アフロディーテ様にキックを乱舞してみたり。
昨日などは、畏れ多くもアイオロス様の頭の上に立ってみたり。
シュラ様にそそのかされて、こ、昆虫を食べてしまったり……。
あぁ、思い出したくもない!


兎に角、この二人(二匹)から、目を離してはいけない。
誰かが、ガッチリと押さえておかなければ、面倒事ばかり引き起こす人(猫)達なのだから。


「やぁ、アンヌ。おはよう。」
「夕べは大丈夫だったか、アンヌ? その二匹の世話は大変だっただろうに。」


二匹の猫ちゃんを抱えてリビングに入ると、アイオロス様とサガ様が来宮していて驚いた。
きっと私がアフロディーテ様の様子を見に行っている間に、デスマスク様が小宇宙通信で呼んだのだろう。
二人仲良く(?)ソファーに並んで座っている。
その向かい側にはデスマスク様。
横の一人掛けのソファーにカミュ様。
これは……、中々に迫力のある光景ですね。


「おはようございます。アイオロス様、サガ様。」
「何やら大きな物音が聞こえてきたが、何かあったのか?」
「あの……、シュラ様がアフロディーテ様の聖衣を蹴り飛ばしてしまって。で、聖衣がこう、グラッと倒れて……。すみません、サガ様。朝から騒音を……。」
「ははっ。シュラはヤンチャだなぁ。」
「笑い事じゃねぇだろ、アンタ。」


私は小さな溜息を吐きつつ、呆れの視線をアイオロス様に向けたデスマスク様の横に、ポスリと腰を落とした。
それと同時、私の左腕からスルリと擦り抜けたアイオリア様が、直ぐ横のカミュ様の膝の上へと飛び乗った。
どうやらアイオリア様は、すっかりカミュ様に懐いてしまったようだ。
ピンと伸ばした背中を、カミュ様の手が往復して撫でる度に、気持ち良さげに目を細めている。


「シュラ様は駄目ですよ。どうせ悪さしかしないのですから。」
「ミャッ?」
「また、そんな可愛らしく、とぼけた顔して。駄目です、無駄です。」
「おーおー、すっかり信用なくしちまったなぁ、オマエ。」
「ミミャー!」


ニヤリと笑ったデスマスク様に、ピンと尖った耳の先端を引っ張られ、怒りの鳴き声を上げるシュラ様。
だが、振り上げたしなやかな前足は、私にしっかりと抱き留められているせいで、虚しく空を切るばかり。
これは後々、シュラ様が人間の姿に戻った後、凄まじい報復が待ち受けているのではないかしら。
これ以上、デスマスク様が何かやらかしたら、元に戻った後に、真っ先に切り身にされるような気がします。
えぇ、シュラ様の事だ、遠慮なしにザックリと……。





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