部屋に響いたデスマスク様の大きな溜息。
それに釣られるように、カミュ様もまた小さな溜息を零す。
猫姿のアイオリア様は、自分は不運だと言いたげに、小さな顔に悲しい表情を浮かべて、カミュ様の腕の中に収まっていた。
ただ一人、いや、ただ一匹、アフロディーテ様に摘まれたままのシュラ様だけが、鎮まらない怒りに大声で鳴き続けている。


「ミギャー!」
「まぁイイ。兎に角、コイツ等を何とかしろ。」
「そう言われてもな、デスマスク。私にコレをどうしろと?」
「猫化の毒を作ったのが貴方なら、解毒剤を作れるのも貴方しかいないのだ。違うか?」
「解毒剤? そんなもの必要ない。」


まるで知った事ではない、そんな興味なさげな態度で、アフロディーテ様はシュラ様を摘んでいた手をパッと離した。
そのまま真っ逆様に落下するシュラ様。
だが、床に激突寸前でクルンと回転し、見事に着地する。
おお、流石は身軽な黒猫ちゃん、素晴らしい着地です。
それにしても……、アフロディーテ様ってば、自分が原因でこんな事になってしまったというのに、何という無関心さなのだろう。
まるで他人事だわ。


「必要ないとは、どういう意味なんだ、アフロディーテ?」
「そのままの意味さ。どうせ直ぐに戻る。解毒剤を作るだけ時間の無駄だ。元々、作ったのはエッチ薬だからな。効果は一日で切れる程度しかない。そうじゃないと危険過ぎるだろう。」


そもそもエッチ度が増すお薬などを作った事自体が危険過ぎるのですけど、アフロディーテ様。
そこは棚上げして、そんなにも平然としてられるなんて、何という図太い神経……。


「もう良いだろう。私は疲れた。休ませてもらうぞ。」
「オイ、コラ! 待て、アフロディーテ!」
「話は、まだ済んでいないのだ。報告もあるのだぞ。」
「そんなもの、後でも出来る。」


事態は未解決、話も全く終わっていないというのに、一方的に振り切って、アフロディーテ様は部屋を出ていこうとする。
勿論、デスマスク様もカミュ様も、彼を引き留めようとしたけれど、ご機嫌斜めのアフロディーテ様が、人の制止を聞く訳もなく。
ズカズカと大きな足音を立てて、廊下へと消えていった。


えっと……。
出入口の方ではなく、廊下へと向かっていったという事は、双魚宮に帰る訳じゃないのね。
向こうにあるのは、シュラ様(と私)のベッドルームと、私が使っている使用人の小部屋、それに客用寝室が二つ。
つまりは、自宮に帰るのが面倒だから、ココで仮眠を取ろうという魂胆?


「クソッ! あの調子じゃ、何やっても起きねぇぞ。暫くは、どうしようもねぇな、ありゃ。」


慌ててアフロディーテ様の後を追ったデスマスク様だったが、直ぐに苦い表情でリビングに戻ってきた。
どうやら、こちらが何を言っても聞く耳持たずで、勝手に客用寝室のベッドに潜り込み、あっと言う間に爆睡してしまったらしい。
結局、最後まで暴君王子である事を貫いた、と。


「昨日、私が合流した時点で疲労困憊状態だったからな。正直、あの任務は黄金聖闘士といえど、一人では厳しかったように思う。」
「で、交代で行ったはイイが、現場の状況から、二人掛かりで事に当たった方が賢明だっつー判断になったってワケか、カミュ?」
「そうなのだ。実際、私一人残ったところで、どうにもならなかっただろう。」


それで帰還が予定よりも大幅に遅くなったという訳ですか。
どちらにしろ、アフロディーテ様が解毒剤を作る気がないのなら、戻りが早かろうが遅かろうが関係なかったのかもしれない。


諦めの溜息か、デスマスク様が大きく息を吐いて、次いで、ドカリとソファーに腰を下ろした。
カミュ様もそれを見習って、アイオリア様を抱っこしたまま、一人掛けの椅子に座る。
そんな彼等のために冷たい紅茶(勿論、私用に淹れておいた安全な紅茶)をリビングへと運ぶと、私はアフロディーテ様の様子を窺いに、彼が眠っているであろう客用寝室に向かった。





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