薄く開いた扉から、中の様子を窺い見る。
部屋の片隅には、オブジェ形態に戻った魚座の聖衣。
床の上には、脱ぎ散らかされたアンダーウェア。
そしてベッドの上掛けが、こんもりと盛り上がり、枕の上に無造作に広がるのは水色の癖毛。
恐る恐る声を掛けてみたけれど、反応は全くない。


何というか……。
恐ろしいくらい、シュラ様にそっくりだ。
一瞬、デジャブかと思ってしまったくらいに。
衣類で部屋を散らかし、一人で勝手に寝落ちて、そして、眠ってしまうと何をしても起きない。
普段のズボラなシュラ様と瓜二つの光景。


「ミャーン!」
「ミィッ!」
「えっ? あ、コラッ!」


いつの間に私の後を追ってきていたのか。
シュラ様とアイオリア様が私の両足の間を抜け、更には狭いドアの隙間を潜り、物凄い勢いでアフロディーテ様の眠る部屋へと乱入していった。
そのまま全力でベッドに飛び乗ると、アイオリア様はアフロディーテ様の耳元で大声を上げて鳴き、シュラ様に至っては、爪を立てて水色の髪の毛をガシガシと掻き毟り出す始末。
しかも、そんな猫二匹による猫らしい強烈な攻撃を物ともせず、一向に目覚める気配のないアフロディーテ様。
良くもまぁ、この状況で寝ていられるものです。


「ミギャー!」
「キシャー!」


あまりの反応の無さに、返って激昂したらしいシュラ様は、その長くしなやかな前足でもってゲシゲシとアフロディーテ様の頭を足蹴にしている。
それでも目覚めないのを見て、今度はピョンピョンと彼の背中の上で飛び跳ね始めた。
つまりは、猫型ドロップキックの雨嵐。
そこに、それまでアフロディーテ様の耳元で奇声攻撃を続けながら、様子を窺っていたアイオリア様までもが加わり、二匹の猫によるドロップキックの乱舞が続く。


柔らかなベッドの上。
うつ伏せで眠る、美しく艶やかな麗人。
顔から上だけを見れば、まるでお伽話の『眠り姫』のようだ。
だけど、視線を少しズラせば、背中を覆う上掛けの上で、怒り狂った二匹の猫ちゃんが交互にピョンピョンと飛び跳ねては、恨みのキックを炸裂させている。
何をやっても目覚めない姿は、確かに『眠り姫』に似ているのだろうけれど……。


「ストップ、ストーップ! いい加減にしてください、シュラ様、アイオリア様!」
「ミャミャッ!」
「ミ、ミー!」


こんな事を続けていれば、睡眠妨害による怒りで、アフロディーテ様にトドメを刺されかねない。
猫の姿じゃ、二人掛かりでも勝ち目はないですもの、一息であの世逝き決定だ。
アフロディーテ様が起き出す前に、彼等を止めなきゃ。


「キシャー!」
「シュラ様っ?!」


努力の甲斐あって、執拗な猫ちゃん達の攻撃を、何とか食い止める事は出来たものの。
結局は怒りの鎮まらなかった様子のシュラ様。
部屋を出しなに、いきなり走り出したかと思えば、片隅に置かれていた魚座の聖衣に向かって華麗なるローリングソバットを放った。


――ドンガラガッシャン!!


凄まじい音を立てて崩れるオブジェ形態の聖衣。
フンと満足そうに鼻を鳴らす黒猫姿のシュラ様。
しかし、そんな轟音にもアフロディーテ様はピクリとも動かず、彼の目が覚める事もなかった。



→第9話へ続く


- 6/6 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -