部屋の中はシーンと静まり返り、ただ唖然とアフロディーテ様の顔を眺める三人と一匹。
デスマスク様とカミュ様と私、それに、カミュ様に抱っこされた猫姿のアイオリア様。
そんな中、それまで私の胸にゴロゴロと擦り寄っていたシュラ様が、何の前触れもなく腕の中から、ヒョイと飛び出していった。


「あ、こら、シュラ様!」
「……む?」


そして、再び始まるシュラ様の飛び掛かり攻撃。
「シャー!」と怒りの声を上げ、憤怒の形相でピョンピョンとアフロディーテ様に向かって飛び掛かり続けるシュラ様。
相変わらず聖衣に阻まれて滑り落ちてばかりいるのだけれど、諦める気は毛頭ないらしい。


「キシャー!」
「煩いな、キミは。」
「ミミャッ?!」


胸の辺りに飛び掛かったところを、アフロディーテ様にあっさりとキャッチされてしまい、焦るシュラ様。
しかし、直ぐにバタバタと手足をバタつかせ、悲鳴のような声を上げて身を捩る。
そんな暴れ猫を物ともせず、アフロディーテ様は引っ掴んだシュラ様の黒猫姿を繁々と眺めた。


「何故に猫……。何故に失敗……。」
「そりゃ、俺等が聞きてぇよ。」
「ミギャー!」
「そもそも、どうしてエッチ薬など作ろうとしたのだ? 貴方らしくもない。」
「最終的には媚薬になれば良いと思っていたんだ。しかし、媚薬など作った事がなかったので、採取した薔薇毒の強さがいまいち良く分からない。そこで、実験あるのみだと……。」
「で、シュラに一服盛ったってワケか。」


結果的には、シュラ様どころか、アイオリア様まで巻き込まれてしまった。
その上、性的欲求とは何ら関係もない、猫化という現象に見舞われてしまった。


「媚薬か。そのようなもの、何に使うつもりで?」
「ウチの女官さ。私の新しい恋人なんだか、未だ酷く頑なでな。」
「つまり、中々、その身を任せてくれねぇから、一服盛って、その気にさせてやれっつー事だな。ったく、とンでもねぇバカだろ、オマエ。しかも、なンでまた、シュラを実験台に選んだよ?」
「エッチ度が増したかどうかは、恋人がいる者の方が分かり易いだろう? となれば、キミかシュラかミロかアイオロスの四択。しかし、ミロは前に一度、犠牲になってもらったから可哀想だし、だからと言って、アイオロスに盛るのは、私の命が危ない。」


確かに、アイオロス様に毒を盛ろうなんて、恐ろし過ぎる。
何がって、後の報復が。
聖域の英雄は、聖闘士一の危険人物。
何か危害を加えようなど、考える事すら恐ろしく、勇気がいる相手だ。


「キミは異常に警戒心が強いしな、デスマスク。キミに疑われないよう毒を盛る方法を思い付かなかった。」
「つまり、消去法でシュラになったという事か。しかし、貴方はパートナーの事も考えるべきだったのではないのか?」
「ただでさえ絶倫のシュラが、更にエッチ度十倍になンてなってたら、今頃、アンヌが死ンでるぜ。」


あああ、本当だ!
本当に危ないところだったのだわ(私が)!
毒の効果が猫化ではなく、エッチ度十倍増しだったとしたら、昨日の夕方から今の時点まで、間違いなくベッドに釘付けにされていた事だろう。
その上、アイオリア様も毒を口にしたのだから、もしかしたら二人掛かりで……。
なんて、空恐ろしい事態に発展していた可能性だって有り得る。


「命拾いしたな、オマエ。」
「は、はい……。」


頭をポンッと叩くように撫でたデスマスク様の言葉に、大きく胸を撫で下ろし、何度も頷いていた私だった。





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