「で、仮に、コヤツ等が本当にシュラとアイオリアだったとして、何故、猫になどなったのだ?」
「アフロディーテ……。昨日、私が全てを説明したではないか。忘れたのか?」


首を傾げたまま疑問を投げ掛けるアフロディーテ様と、そんな彼を呆れ顔で見返すカミュ様。
一瞬だけ訪れた沈黙の間に、二匹の猫ちゃんがギャーギャーと上げる怒りの雄叫びだけが響く。


「昨日は長引く敵との対峙で、心底、疲れ果てていたんだ。ちなみに、私の特技は目を開けたまま寝る事だ。」
「私の話を聞いてる振りをして、寝ていたのか、貴方は……。」
「ほぉ、そりゃイイ事を聞いた。今度から、黄金聖闘士の円卓会議で、オマエが一言も意見を言わねぇ事があったら、目ぇ開けたまま居眠りしてやがるぜって、サガにチクってやる。」
「蟹が……、刺身になりたいのか?」
「テメェこそ、切り身になりてぇのかよ。」


いやいやいや!
そこで争うのは止めてください!
今はアフロディーテ様の居眠り問題よりも、シュラ様とアイオリア様の事が最優先ですから!


「二人共、いい加減にしないか。シュラとアイオリアの事を忘れてはいけない。」
「チッ、しゃあねぇ。」
「ふん、いつか決着をつけてくれる。」


お二人よりも年下でありながら冷静沈着なカミュ様のお陰で、何とか場が治まって良かった。
こういう時は大抵、シュラ様とデスマスク様の言い争いを、アフロディーテ様が止めるというのが、いつもの光景なのだけれど。
今日のアフロディーテ様は虫の居所が悪いのか、疲れてピリピリしているのか、普段の優雅で落ち着いた雰囲気は何処にも見当たらない。


カミュ様は、未だアフロディーテ様に飛び掛かり続けている猫ちゃん二匹の内、金茶のアイオリア様を難なく捕まえると、手足をバタつかせて抵抗する彼を押え付け、しっかりと腕に抱っこした。
それでも暫くは、怒りの声を上げながら、バタバタともがいていたアイオリア様だったが、背や頭を撫でられている間に、次第に大人しくなっていく。
うーん、子供の扱いだけでなく、動物の扱いにも慣れてらっしゃるのね。
カミュ様、流石です。


一方のシュラ様は、デスマスク様が捕まえて、私の腕の中へと戻された。
既に疲れていたのか、私に抱っこされると同時に、シュラ様は大人しくなる。


「――という訳だ。彼等が猫になってしまったのも、貴方がお茶に仕込んだ薔薇毒のせいではないかと、サガやアイオロスも疑っている。」
「なる程……。確かに、私が疑われても仕方ない状況だな。」
「ンだよ。まるで、犯人はオマエじゃねぇみてぇな言い方しやがって。」
「私ではないだろう。何しろ、私がシュラに渡した紅茶には、猫になる薔薇毒ではなく、新しく開発したばかりの『性的欲求が十倍になる薔薇毒』を仕込んだのだ。よって私のせいではない。」


――シーン……。


長い長い沈黙。
デスマスク様とカミュ様と私、そして、カミュ様に抱かれたアイオリ様と、私の腕の中でゴロゴロしていたシュラ様までもがピタリと動きを止め、どれくらい時間が経っただろう?
一分……、二分……。


「ぶわっかか、テメェわっっ!! どう考えても、原因はテメェ以外にねぇだろっ!!」
「何故だ? 私は猫化の毒など作ってないぞ。」
「何故だ、ではないのだ。性的欲求云々の毒開発に失敗して、猫化毒になってしまったのだろう。それくらい分からないのか、貴方は?」
「失敗……。」


目を大きく見開いて、ジッと私の腕の中の黒猫姿なシュラ様を見つめるアフロディーテ様。
私は息を飲んで、彼の次の言葉を待った。





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