「ミャッ?!」
「ミミッ?!」


それまで和やかに(かどうかは疑問だけれども)過ごしていた部屋に、ピリッと緊張が走った。
突然、シュラ様とアイオリア様が、私の腕に抱かれたままの状態で、身を強張らせたのだ。
身体中の毛が逆立ち、フーフーと荒い息を吐いている。
長い尻尾はピンと立ち上がり、毛の短いシュラ様は余り変わりないが、モコモコなアイオリア様の尻尾は、毛が逆立っているためか倍くらいに膨れ上がっているようにも見えた。


「……やっと着いたか。」
「え?」
「アフロディーテだ。この宮の入口まで来てる。カミュも一緒のようだな。」
「フシュー、フシュー!!」


デスマスク様の口調は普段と何ら変わりない。
ノンビリと間延びした話し方と、テーブルに肘を立ててポリポリと顎を掻く仕草は、まるで緊張感の無い様子。
それでも、歯を剥き出しにして闘争心を露わにしている猫ちゃん二匹と同じく、彼もまた強く警戒しているだろう事は、普段では絶対に見せない鋭い目付きから、直ぐに分かった。


――ガチャリ!


「邪魔をするぞ、アンヌ。」
「お、お帰りなさいませ、カミュ様、アフロ――、うわっ! こ、こらっ!」
「ミギャー!!」
「キシャー!!」


開いたドアから、カミュ様を先頭にして、その後ろからアフロディーテ様が姿を現すと同時に、スクッと立ち上がっていた私だったのだが。
それよりも一歩早く、腕の中から弾丸の如くに飛び出していったシュラ様とアイオリア様が、アフロディーテ様に向かって一直線に突進していた。
怒りを露わにした鬼の形相で、足元に体当たりをすると、次いで、その足元から跳ね上がり、ピョンピョンと飛び掛かっている。


「何だ? このムカつく猫は?」
「ギニャー!!」
「ギギャー!!」


怒りのために、身体に余計な力が入っているのだろう。
先程はアフロディーテ様の身長より高い本棚の上に軽く跳び乗っていたシュラ様達だが、今は彼のウエスト辺りまでしか飛び上がれていない。
しかも、相手は聖衣を着用している。
爪を立ててもズルズルと滑り落ちて床に落下し、それでもまた飛び掛かる事を、ひたすら繰り返していた。


「ミギャー!」
「そりゃ、シュラとアイオリアだ。」
「は? 猫に黄金聖闘士の名前を付けてるのか? 確かに雰囲気はシュラとアイオリアに似てはいるが、馬鹿な事をするものだな。」


纏わり付かれる事に苛立ってか、アフロディーテ様は飛び掛る二匹の猫ちゃんを、腕を軽く振って払い飛ばした。
が、そう簡単に怒りの治まらない二匹は、叩き落とされた床から直ぐに起き上がると、めげずにアフロディーテ様へと突進していく。


「ギシャー!」
「違ぇよ。ソイツ等、シュラとアイオリアに似た猫じゃねぇ。まンま、アイツ等だ。」
「意味が分からんぞ、蟹。」
「ギギャー!」
「蟹言うな、腐れ魚が。だから、シュラとアイオリアのヤローが、昨日、突然に猫になっちまったンだよ。分かったか? ぁあ?」
「猫になった……、だと?」


煩わしそうに猫ちゃん達を払っていた動きを、ピタリと止めたアフロディーテ様が、飛び掛ってくる彼等の顔をマジマジと見下ろす。
そして、「まさか、この猫がイコール山羊と獅子?」とでも言いた気に、大きく首を傾げて見せた。





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