8.横暴な麗人の帰還



――ゲェッフ!


何だかんだでバタバタしつつも、何とか朝食を終えた私達二人と猫ちゃん二匹。
やっと落ち着いたというべきか、今はまったりとリビングのソファーに座っている。
正直に言えば、私は今朝の一幕でスッカリ疲れ果ててしまっていたし、デスマスク様は慣れない早起きのせいで、今は目がトロンとしていて眠そうだ。
私の真横に居るアイオリア様は、既にクルンと丸まって半分は夢の中。
相変わらず私の膝の上を占拠するシュラ様は、美味しい猫缶に満足してか、幸せそうに大きなゲップを吐いてから、続け様にクワワッと大きな欠伸を零した。


「する事……、ないですね、何も。」
「しゃあねぇだろ、俺等だけじゃ何も出来ねぇし。あのバカ魚が帰ってくるまでは、大人しくココに立て籠ってるに限る。」
「この醜態を人に見られる訳にはいきませんものね……。」


同じ黄金聖闘士なら兎も角、後輩である白銀や青銅の聖闘士達に知られては、この聖域にどれ程の動揺が走るか。
それどころか、雑兵さん達や聖域勤めの一般人達の間に、おかしな噂が広まってしまっては、それこそ重大な問題、聖域上層部の信用問題に係わる。
信頼を失うのは一瞬でも、それを取り戻すには何年が掛かるか……。


「しっかし、マジで遅ぇなぁ。もしや逃げたか?」
「まさかアフロディーテ様が逃げるような事はしないと思いますけれど。デスマスク様じゃあるまいし。」
「あ? なンで俺が逃げなきゃなンねぇンだよ。俺はいつでも正々堂々と胸を張ってだな。」
「胸を張っているというより、ふんぞり返っているだけのような気が……。」
「アンヌ、テメェ、殴られてぇのか?」


殺気だったデスマスク様がソファーから腰を浮かすと、すかさず起き上がった猫ちゃん二匹が、歯を剥き出しにして威嚇のポーズを取る。
暫しの睨み合い。
だが、先に折れたのは勿論、デスマスク様の方だ。


「キシャー!」
「シャー!」
「煩ぇよ、オマエ等。俺が女に手を上げるかっての。」


デスマスク様が溜息を吐きながらソファーに腰を掛け直すと、猫ちゃん達の怒りも徐々に引いていく。
シュラ様はクルリと向きを変えて、またもや私の胸の谷間に顔を埋め、ゴロゴロと喉を鳴らした。
何という切り替えの早さだろう。
ふと視線を感じて目を向ければ、ちょこんと座ったアイオリア様が羨ましそうにコチラを見上げている。
そんな顔をされては、放っておけないのが私の性分。
シュラ様の身体を横へ少しだけズラすと、空いた右手にアイオリア様を抱えた。
両手にもふもふ……、何という心地良い感触……。


「つか、ソイツ等。もうそのままでイイんじゃね?」
「そういう訳には……。」
「だってよ。猫になっても困った様子もねぇみてぇだし、いっそ幸せそうだしな、ソイツ等もオマエも。これからは、アンヌ専属の猫聖闘士ってコトでイイだろ。」


確かに、一生懸命に私を守ってくれようとするのは嬉しいけれど、猫であるが故に戦闘力が相当に低下しているのも間違いない事実。
デスマスク様を相手にしたって、数の上では『二対一』でも、それは『二匹対一人』であって、一瞬で結果は出てしまう。
冥界波で、あっという間に、あの世逝きだ。
猫である彼等の戦闘力は、普段の百分の一、いや、千分の一程度かもしれない。


「猫の姿も捨て難いですけれど、やっぱり普段のシュラ様とアイオリア様の方が良いです。」
「おーおー、そうですか。」
「彼等が元に戻らなかったら、デスマスク様のお仕事量も増えますよ?」
「そりゃ勘弁だな。」


渋い顔をして髪を掻き毟るデスマスク様の姿に対して、これ見よがしに「ミャーン!」と鳴いたシュラ様。
まるで「ザマを見ろ!」とでも言っている様に思えた。





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