「ミャ、ミャー。」
「オイオイ、アンヌ。そンな避けンなって。寂しがってンぞ、シュラが。」
「ミャーン。」


そんな事を言われたって、昆虫を食べたのですよ!
そんな人(猫)に抱き付かれたりとか、擦り寄られたりとか、考えただけでも寒気が!
悪寒がするっ!


「しゃあねぇだろ、猫なンだから。昆虫くらい食って当然。鼠じゃなかっただけ有り難く思え。」
「ね、鼠……。」
「足の泥を拭くついでに、口の周りも綺麗に拭っといてやったから安心しろ。水も飲ンだし、もう痕跡は残っちゃいねぇよ。」
「ほ、本当ですか?」


恐る恐る細くドアを開けて、部屋の様子を窺い見れば、扉の前にちょこんと座って陣取っていたシュラ様が、「ミャン。」と一鳴き。
そして、ジッとコチラを見上げてくる。
ううっ、その上目遣い、反則です。
可愛い、抱っこして撫で回したいけれど、昆虫が、昆虫が……。


「取り敢えず、出て来い。アイオリアのヤツも、そろそろ戻って来ンだろ。」
「ミャッ。」


アイオリア様!
そうだわ、アイオリア様がいるじゃないの!
シュラ様を撫で回せない分、アイオリア様を思い切り撫でて、抱っこして、愛でれば良いのよ!
アイオリア様さえいれば、十分に満足は出来るわ!


そう思っている間に、カタリと窓の方から音がして、漸く外の空気に満足して戻ってきたアイオリア様が、ヒョイと部屋に入ってきた。
一旦、窓の前で止まり、体毛に付着したゴミを払い落としたいのか、フルフルと身体を震わせている。
そんなアイオリア様の足を拭おうと、布巾を手に近付いた私だったのだが――。


「アイオリア様、おかえりな――、ギャッ!」
「オイオイ、また凄ぇ悲鳴だな。なしたよ、アンヌ?」
「あ、あ、アイオリア様の、口に……。」


今度は『バッタの足』なんて生易しいものではなかった。
アイオリア様ったら、何やら怪しげな物体を、その可愛らしい口に咥えて、コチラを見上げているのですもの。
全身が緑色をしたシュッと細いアレは……。
間違いない、昆虫だ。


「ほー。シュラがバッタなら、オマエはキリギリスか。で、どうすンだ、ソレ?」
「どうするもこうするも、ペッしてください、ペッ! お外に行って、ペッ! するのですよ、アイオリア様!」


未だ口にシッカリと昆虫を咥えたままのアイオリア様は、声を出せないために、大きく首を捻るばかり。
ううう、そんな気色の悪いものを咥えたまま、そんなに可愛くコチラを見上げないでください、アイオリア様。
それよりも、どうして私の言う通りにしてくれないのでしょう?
昨日までは、ちゃんと言葉が通じていたというのに、まさか、今朝になって、身体だけでなく心まで猫化してしまったとか。
それで、言葉が通じなくなってしまったとか……。


あああ!
だから、バッタとかキリギリスとか、あんな気持ち悪いだけの昆虫が、美味しそうな餌に見えてしまうようになったのかも!
そうだわ、きっとそうよ!


「ミャン!」
「っ?! シュラ様っ?!」


一人、頭の中でグルグルと考えに耽っている間に、アイオリア様の隣へと移動してきていたシュラ様。
伸ばした前足で、アイオリア様の首辺りを何やらポムポムと叩いてみせる。
すると、どうだろう。
それまで、どうして良いのやら困惑しているばかりだったアイオリア様の瞳がキランと輝き、「もしや?」と思う間もなく、咥えていた昆虫をパクリ。
口の中へと飲み込んでしまったではないか。


――パリパリ、モグモグ……。


「い……、嫌あぁぁぁ!」
「ミャーン!」
「ミィッ!」


静かな早朝の磨羯宮に、私の上げた絶叫と、勝ち誇った猫二匹の鳴き声が響き渡った。





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