でも、市場といっても、こんな朝早くにお店は開いていない。
一体、デスマスク様は何をしに行ったというのだろうか?


「ちょっくら我が儘を聞いてもらいにな。いつもの煙草屋のオヤジ。そいつが猫好きで有名でよ。ならばと思い行ってみたら、まぁ良い成果があったってワケだ。流石は俺だな。普段の行いが、こういうところに返ってくる。」
「普段の行いって……、最悪じゃないですか。」
「煩ぇよ、アホ。」


――パシンッ!


見事に頭を引っ叩かれてしまった。
手加減してくれているとはいえ、結構な痛さですよ。
シュラ様とアイオリア様がいないからって、遠慮なしに突っ込んでくるなんて酷い人。
これをお二人が見ていたなら、間違いなく、彼ご自慢の銀髪を掻き毟ろうと、襲い掛かる事だろうに。


「見ろ、アンヌ。煙草屋のオヤジに分けてもらった猫缶。これで栄養面は問題ねぇし、面倒なメシも作らンくてイイってワケだ。あとコレ、トイレの砂。」
「わ、助かります。ありがとうございます。」


次々と袋の中から出てくる多様な猫缶。
その中に、何だか非常に高価そうなものも混じっているんですが……。


「あ、ソレ、特別な時用だってよ。」
「そんな大事なのを、もらってきちゃったのですか?!」
「黄金聖闘士様が飼われている猫なら、是非、食って欲しいってさ。ま、その猫自体も黄金聖闘士なンだがなぁ、アッハハハッ。」


そこ、笑いどころですか?
笑っている場合じゃないと思うんですが。
それ以上に、笑えないと思うんですけど。


「でも、こんなに沢山は必要ないのじゃないですか? ずっと猫ちゃんのままって事もないでしょうから。」
「ンなの分かンねぇぞ。大体、まだ原因すら掴めてねぇンだ。本当に元に戻るのか、それすらも怪しいしな。」
「そ、そんな……。」


確かに、昨日はサガ様達との話し合いで、原因はアフロディーテ様の毒薔薇だろうと結論付けはしたけれど。
でも、実際のところは、本当にそれが原因だったかどうかは、まだ分かっていないのだ。
原因は毒薔薇ではなく、もしかしたら、恐れていた猫化ウイルスなのかもしれないし……。


「てなワケで、備えあれば憂いなしってな。無いと困るが、あっても困らンだろ。」
「そのような事にならない事を祈りたいです、私。」


そりゃあ猫ちゃんの姿も可愛いし、人の姿に戻ってしまうのは寂しいけれど、でも、シュラ様もアイオリア様も聖域にとっては大事な聖闘士。
しかも、至高の存在である黄金位。
早く元に戻っていただかないと、この聖域に不穏な影が広がる事にもなりかねない。


「アフロディーテが戻ってくりゃ、少しは進展があるンだがな。しかし、遅ぇな、アイツ。こンな時間だぞ? もう戻って来ててもおかしくねぇのに。」
「何かあったのでしょうか?」
「さぁな。戻るに戻れン状況にあるのかもしンねぇ。もしかしたら、心にやましい事があって、ワザと戻って来ねぇのかもな。」


や、やましい事って何ですか?!
デスマスク様じゃあるまいし、アフロディーテ様に限って、そのような事は……。


「決まってる。アイツ等をあンな姿にした原因が自分にあると分かってるから、逃げだしたンだろ。」
「例えそうだとしても、アフロディーテ様は逃げたりしないと思います。」
「分かンねぇだろ、ンなの。」


投げ槍なデスマスク様の言い様に、もう一度、言い返そうとした時。
カタンッと小さな音がして、細く開いた窓から黒猫姿のシュラ様が、ニョッキリと顔を出した。





- 3/6 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -