「で、アンヌよぉ。どうすンだ、コレ?」


目の前には、デスマスク様に首根っこを摘まれプラーンと垂れ下がる、猫姿のアイオリア様。
そして、私の元には、両脇腹に手を入れられて、同じくプラーンと垂れ下がっている、黒猫姿のシュラ様。
向かい合って吊られている猫ちゃん二匹は、今のところ大人しくしてはいるけれど、多分、これは再び暴れるチャンスを見計らっているだけだと思う。
だって、お二人の目、何かを探るようにギラリと光っているもの。


「どうするもこうするも、こんなに暴れられては私が困りますから。」
「つってもなぁ……。こンだけ暴れるっつー事は、相当、運動不足なンじゃねぇの?」
「猫ちゃんが運動不足?」
「元が朝練鍛錬大大大好き連中だからな。雨だろうと雪だろうと、朝っぱら早くからトレーニングしてやがるし。」


確かに、シュラ様はどんな時だろうと早朝トレーニングを欠かさない。
アイオリア様も多分、そうなのだろう。
たまに二人で一緒にトレーニングしたり、手合わせしたりもしているようだし。


「でも、だからと言って、どうすれば……。」
「室内に閉じ込めてるから、こうなンだろ。アンヌ、ソイツ、ちょっと貸せ。」
「え、あ、はい……。」


促され、言う通りに差し出すと、途端にギャーギャー喚いて暴れ出すシュラ様。
それをものともせずに抱え上げ、デスマスク様は中庭へと続く窓を少しだけカラカラと開いた。


「イイか、オマエ等。今から十分間だけ外に出してやる。ただし条件がある、それを絶対に守れ。」
「ミャッ!」
「ミィッ!」


外に出してもらえると聞いて、デスマスク様の腕の中でビシッと背筋が伸びる二匹の猫ちゃん達。
やはり相当に動き回りたかったのだろう。
身体がウズウズと動いている様子が、見ていて面白く、そして、何だか可愛らしい。


「中庭の中は好きに走り回ってイイ。だが、そこから外には出るな。それと、俺とアンヌ以外のヤツに見つかったら、何があっても一目散に逃げ帰ってこい。これは絶対だ。分かったな?」
「ミャミャッ!」
「ミ、ミィッ!」


二匹が揃って勢い良く前足を上げると、デスマスク様は小さく頷き、細く開いていた窓を、猫が通れる幅まで更に開いた。
それと同時に、我先にと弾丸の如く外へ飛び出していく猫ちゃん達。
その姿をガラス越しに眺めてみても、あまりの速さに目が追い付かない私。
ね、猫になっても動きが光速なのですね、彼等は……。


「ったく、朝っぱらから面倒掛けやがって。」
「すみません。でも助かりました、ありがとうございます。」
「ま、オマエじゃ、あの二匹の制御は無理ってモンだからな。」


フンと鼻を鳴らして屈んだ彼は、床に散らばったリモコンや雑誌を拾い上げた。
何だかんだで散らかっているのが我慢ならないようで、そういうところは神経質なデスマスク様らしいと思う。
それにしても、デスマスク様は、こんな朝早くから何処に行っていたのだろう。
見たところ、ちゃんと着替えも済んでいるし、ちょっと散歩に行っていただけという雰囲気ではない。


「あー、ちょっとな。西の市に。」
「こんな朝早くにですか?」


聖域内には西と東の二ヶ所に、内部に住まう人々のための商店が建ち並ぶ区域がある。
一般人だけではなく、雑兵さんや、聖闘士達も利用はするが、黄金位ともなると買物など従者や女官任せで、自ら赴く事など滅多にない。
が、他の方々よりも世俗に長けているデスマスク様は、意外にもそういう場所にも顔が利く。
理由は簡単、彼が煙草愛好者だからだった。





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