7.朝の大騒動



朝、目を覚ますと、ベッドの上にシュラ様の姿はなかった。
勿論、アイオリア様の姿も。
視線を部屋のドアへと移す。
そのドアは細く開いていたが、それは私が昨夜、開けておいたもの(猫ちゃん達がトイレに行きたくなった時のため)だから、別段、疑問もない。
だが、それが昨夜のままなのか、それとも、元の姿に戻った彼等が開けたものなのかは判別出来なかった。


ノロノロと起き上がり、着替えを済ます。
いつものようにシーツを剥がすが、そこに物足りなさを覚えるのは、床に散らばったシュラ様の衣服がないからだ。
これがいつもの朝なら、床に脱ぎ散らかされた彼の衣服を、シーツと共に丸めて抱えて上げる。
ただその動作がないだけで、随分と寂しさを感じるものなのね。


私はシーツを洗濯機に放り込み、顔を洗って軽く身支度を整えると、急いでリビングへと向かった。
もしかしたら、シュラ様もアイオリア様も人間の姿に戻っているかもしれない。
小説や漫画の中では大抵、『一晩眠って目覚めたら元に戻る』というのが定石らしいし。
リビングに入れば、いつものように眉を顰めて新聞を読んでいるシュラ様がいるかもしれない。
あるいは、トレーニングから汗だくで戻ってきて、半裸な姿でノシノシ歩いているかもしれない。


まぁ、そんな私の期待など、軽く打ち砕いてくれるのがシュラ様なのですけれど……。


リビングのドアを開けると、元の姿に戻るどころか、昨日と同じ猫の姿のままのシュラ様とアイオリア様がいた訳で。
しかも、ここぞとばかりに走り回り、暴れ回っていた訳で。
グルグルバタバタと派手な音を上げていた訳で。


「こ、コラッ! 何をしてるんですかっ!」
「ミャー!」
「ミィッ!」


大声で叱っても、全く言う事を聞かず、走り回るのを止めない訳で。
止めないどころか、アチコチで物を倒したり、蹴落としたりする訳で。
挙げ句の果てに、シュラ様は私の手が届かない本棚の上へと飛び乗り、アイオリア様はテレビの上側の細い縁を平均台のように渡り出す始末。
こ、これを一体、どうしろと言うのですか……?


取り敢えず、シュラ様は放っておこう。
あんなに高いところに登られては、手も足も出ない。
折角、昨夜、デスマスク様が綺麗に身体を洗ってくれたというのに、あんなところに乗っては、また埃塗れになってしまうだろうが、それも仕方ない。
ならば、まずはアイオリア様の捕獲を……。


「えいっ! っと、何で避けるんですか?!」
「ミミッ?」
「大人しく捕まってくださ――、きゃっ!」


迂闊だった。
アイオリア様に集中する余り、背後から迫ってきたシュラ様に気付けなかった。
身を屈めてアイオリア様を狙っていた、その隙に、突き出していたお尻に飛び付かれたのだ。
あぁん、もう!
シュラ様を放置しておくと、何を仕出かすか分からないのだったわ。


「し、シュラ様っ!」
「ミャッ?」
「また、そんなとぼけた振りして!」
「ミャッ!」
「やっ、ちょっと!」


とぼけた顔して首を傾げたと思ったら、素早い動きで私の方へと突進してきたシュラ様。
そのまま一直線に、女官服のスカートの中へと潜り込んできたのだから、驚くよりも慌てるばかりだ。
あ、アイオリア様も見ているというのに、何をしてくるのですか、貴方はっ?!


「おーおー、朝からなンつー、大騒ぎしてンだか。」
「で、デスマスク様っ! 黙って見てないで、助けてください!」
「助けるっつってもなぁ、アンヌ。俺がオマエのスカート捲っちゃマズいだろが。」
「なら、アイオリア様だけでも捕まえてくださいっ!」


そうよ。
スカートの中に入ってしまったからには、シュラ様には、もう逃げ場はない。
私はデスマスク様がアイオリア様を捕獲した事を確認すると、すかさずスカートの中で暴れるシュラ様を足の腿で挟んで押さえ付けたのだった。





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