私が寝室のドアに近付くと、道を譲るようにワラワラと左右に散らばるシュラ様とアイオリア様。
それによって空いた場所へ足を進め、ドアノブに手を掛ける。
チラと足下を見遣ると、直ぐに中へと入れるように、ドアの真横に待機している猫ちゃん達の姿が映った。
その様子は、今か今かと待ち構えているようにウズウズ、モゾモゾとしていて、何とも可愛らしい。


「さぁ、どうぞ。」
「ミャッ!」
「ミッ!」


ドアを開けると同時に、弾丸の如く部屋の中へと飛び込んでいく。
そして、トタタタタと軽い足音を響かせ、シュラ様はヒョイと身軽にベッドの上へ。
アイオリア様は、そのベッドの周りをパタパタと走り回りながら、少し羨ましそうにベッドの上にいるシュラ様を見上げた。


「遠慮しているのですか、アイオリア様?」
「ミィ。」
「今日くらいは遠慮せずに、さ、どうぞ。」


そう言っても、まだ躊躇いを見せるアイオリア様を、ベッドの上のシュラ様は、背筋をピンと伸ばして座ったまま、ただジッと見下ろしている。
このまま放っておいたら、埒が明かないわ。
アイオリア様だけ、床で一晩を過ごすという訳にもいかないもの。
私は背後から、その小さな身体をヒョイと抱え上げ、ベッドの上、シュラ様の真横に、そっと降ろした。


「ミャン。」
「ミ、ミィ。」


何が言いたいのかは分からないが、シュラ様は高い鳴き声を一声上げた後、伸ばした前足で、隣に座るアイオリア様の頭をポムポムと軽く叩いている。
そして、直ぐにクルリと背を向け、ベッドの真ん中から枕元へと移動していった。
シュラ様が使っている、いつもの枕。
その上をクルクルと回って踏み付け、丁度良い窪みが出来たところで、満足げに身体を落ち着かせる。
ドッカリと自分の居場所を確保したシュラ様が、満足気にフンと鼻を鳴らしたのを合図に、それまで固まっていたアイオリア様が、ベッドの足下の方へ移動していった。


「アイオリア様、そんな足下の方じゃなくて、こっち側に寝ても良いのですよ?」
「ミ、ミィ。」


いつもはシュラ様と二人で寝ているキングサイズのベッド。
今夜は私と猫ちゃん二匹だけ。
この小さな身体ならば、枕元に二匹寝ていても狭い事はない。
寧ろ、私とシュラ様だけでは寂しい気がする程の広さだ。
だけど、流石にシュラ様のベッドで、更に枕まで使うのは気が引けるのか。
アイオリア様は小さな頭をフルフルと振ると、そのまま伏せって寝てしまった。


「ミャッ。」
「シュラ様?」


こちらは、早くベッドの上に来いと言わんばかりに、手をクイクイとこまねいているシュラ様。
我が物顔で枕の上に陣取り、私の顔をジッと見上げてくる。
まぁ、確かにココはシュラ様の宮で、シュラ様のお部屋で、シュラ様のベッドですけれど。
でも、今の黒猫姿では、どうにも違和感が拭い切れない。


「そんなに急かさなくても、今、行きますから。」
「ミャー。」


部屋の電気を消して、ベッドに乗ると、ギシッと大きな音が鳴った。
暗くなった部屋に一点、仄かなベッドライトの灯りだけが淡い光を滲ませて。
薄暗いベッドの上に、小さな猫の影が、ぼんやりと枕元にシルエットとなっている。


ケットを捲り、中へと潜り込む前に、まずは足下のアイオリア様の方へ近付いた。
既に眠ってしまった彼のフワフワの頭を一撫でし、「おやすみなさい。」と小さく囁く。
それから、ケットの中に身を横たえた後、隣に丸まるシュラ様に向かって手を伸ばし、その身体を撫で回した。


「おやすみなさい、シュラ様。」
「ミャッ。」


ベストポジションに落ち着いた筈の彼が、身を乗り出して近付いてくる。
どうしたのだろうかと思う間もなく、頬に小さくキスをされた。
いつもの日課の、おやすみのキスだ。
だが、今夜は、その頬から何本も伸びた髭が、頬にチクチクと刺さって、それが妙に擽ったかった。





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