ベッドライトを消してしまうと、部屋の中は真っ暗な空間になる。
直ぐ横の枕の上では、モゾモゾと動く丸い塊。
黒く浮かぶシルエットは、シュラ様だ。
なかなか位置が定まらないのか、暫くゴソゴソと音がしていたが、それも直ぐに止んだ。


そして、そんな彼の姿を、目を凝らして眺めていた私も、ジワジワと瞼が重くなっていく。
お二人の事が気になって眠れないのではないかとも思っていたけれど、やはり大きな疲労が溜まっていたのだろう。
瞼が閉じると同時に、いとも容易く眠りの世界へと落ちていく自分がいた。



***



それから、どのくらい経った頃だろうか。
私は優しく頭を撫でる感触に、目を覚ました。
ゆっくりと何度も頭の上を往復する手。
重たい瞼を抉じ開け、その手の主を見上げる。
すると、そこにはシュラ様の顔が見えた。
小さな黒猫の姿ではない、人の姿をした、いつもの凛々しいシュラ様。


あぁ、元に戻れたのですね、シュラ様。
何と言うか、ちょっとだけ複雑だわ。
彼が人間の姿に戻った事は勿論、とても嬉しいけれど、黒猫の姿が余りに愛らしかったので、少し寂しい気もする。
こんなに早く元に戻ってしまうと分かっていたなら、もっと沢山、撫で回しておけば良かったと、今更ながらに襲う後悔の念。


……って、あれ?


こんな風に彼が私を見下ろして、私が彼を見上げているって事は、今、私はどんな体勢になっているのだろう。
いや、分かっている。
これは前にも一度だけ経験があるもの。
シュラ様に膝枕されている状態なのだわ。
一体、何がどうなって、こんな体勢になったのか、まるで分からないけれど、兎に角、私はシュラ様の膝に頭を預け、横になっている事は確実。


早く起きなきゃ、身体を起こさなきゃ。
そう思いつつ、腕を伸ばす。
だが、その伸ばした自分の腕が視界に映った瞬間、私は短くて高い悲鳴を上げていた。


(な……、何よ、コレ?!)


見えたのは明らかに自分のものではない、真っ白なフサフサの毛に覆われた腕。
何かの動物……、犬だろうか?
いや、違う。
この腕は『猫』だわ。
細く、しなやかにスッと伸びる腕。
間違いなく、これは猫の前足だ。


という事は、つまり、今の私は猫の姿であって。
シュラ様は猫から人間の姿に戻っていて。
彼の手で頭を撫でられている。
私が猫の姿のシュラ様をそうしたように、今度は彼が猫姿の私を愛で、可愛がっていると、そういう事。


(な、何でこんな事に……?)


理由は分からない。
分からないけれど、一晩、眠って起きたら、立場が見事に逆転してしまった。
今は猫となってしまった私が、今度はシュラ様に何もかもを頼らなければならない状況に追い込まれてしまっている。


「アンヌ。」
「ミッ?」
「どうした? 何かして欲しいことでもあるのか?」
「ミ〜。」


名前を呼ばれ返事をする声は、やはり猫の鳴き声。
本当に猫なのだわ、自分で自分の姿は見えないけれど、確実に猫になってしまっている。
これから一体、どうすれば良いのだろう。
困惑してシュラ様を見上げると、スッと身を屈めた彼が頬に小さくキスをし、それからスリスリと頬擦りをした。
それが擽ったいような、こそばゆいような変な感覚で、モゾモゾと身を捩ろうとした刹那。
また深い眠りの奥へと、急激に意識が引き込まれていった。





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