「そういえば、俺は知らないんだけどさ。九年前と五年前の時って、どんな被害が出たんだい?」


アイオロス様が興味津々な様子で、サガ様に尋ねた。
そうか、彼はずっとこの世にはいなかったから、ミロ様達が女体化した事件以外は知らないのよね。


「九年前のシャカん時のアレはなぁ……。あンま思い出したくねぇんだが……。」
「デスマスクも何か知ってるのか?」
「俺が第一発見者なモンでね。教皇宮に行くのに、宮を通らせてくれって声を掛けたら、なぁ……。何とまぁ、座禅中のシャカがツルッ禿げになってやがった。あンときゃ、エラく吃驚して腰抜かすかと思ったぜ。」
「シャカ自身は、髪の毛くらい直ぐに生えると言って気にしてなかったようだが、毒薔薇の作用なら、一生、髪が生えなくなる可能性だってあっただろう。それを思うと、私は内心、かなりビクビクしたよ。」


その時は、シャカ様へのお供え物の中に、例の毒薔薇茶を潜ませて置いたらしい。
流石のシャカ様も、それがアフロディーテ様の仕込んだものとは気が付かずに、飲んでしまったみたいだけど。
何よりの救いは、シャカ様自身が全くお怒りにならなかった事だ。
髪の毛も、数日後には、また生えてきたようですし。
アフロディーテ様も命拾いしたわよね、うん。


「五年前のアイオリアのは、あれはちょっと可哀想だったな。」
「あぁ、アレはなぁ……」
「ん、リアに何があったんだ?」
「十五歳当時、アイオリアの声は、もうかなり低かったんだが……。それがある日、突然、ハイトーンボイスに声変わりしてしまって……。」
「つまりは、女みてぇなキンキン声になっちまったって事だ。」


アフロディーテ様の、そもそものターゲットはアルデバラン様だったらしい。
この頃には、黄金聖闘士の誰もが彼から渡されるお茶やお菓子には強い警戒心を抱いていて、受け取ってくれる人がいなかった。
唯一、お人好しのアルデバラン様だけが疑いもせずに、彼の手作りお菓子を受け取ったらしいのだが。
タイミング悪く長期任務に赴く事が決まり、その際、勿体ないからと、アイオリア様にそれを渡してしまったのが悲劇の始まり。
勿論、アイオリア様は、それがアフロディーテ様の作ったものとは知らずに食べ、周囲が仰天するようなキャピキャピ萌え萌えのハイトーンボイスに変化してしまったという。


「大変でしたね、アイオリア様。」
「ミィー。」


慰労の意味を込めて、彼の頭から背へと優しく手を滑らせた。
心地良さげに目を細め、「ミー。」と鳴いて、もっと撫でて欲しいと催促するのが何ともいえず愛らしい。
この愛らしい猫ちゃんが、あの凛々しく男らしいアイオリア様であって。
その凛々しいアイオリア様が、顔立ちはそのままに、キャピキャピ声になったところを想像すると、確かに凄まじいものがある。


「しっかし、今までのヤツん中で、今回のが一番、破壊力凄ぇンじゃねぇの?」
「そうだな。何だかんだ言っても、これまでは人の姿は留めていたからな。しかし、今回は……。」


困惑する三人の視線を辿れば、そこには私の膝の上でグッスリと眠る猫シュラ様と、その横で私の手に擦り寄る猫アイオリア様の姿。
二人共に、今は人間の姿を留めてはおらず、見事に可愛らしい猫ちゃんへと変化を遂げてしまったのだから、アフロディーテ様の毒薔薇の驚異的な進化には、感嘆の思いの他に、ゾッとする程の恐怖を感じた。





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