まさか、あの紳士で優しいアフロディーテ様が。
いつも優雅な笑みを絶やさないアフロディーテ様が。
毒薔薇の効果を検証したいがために、仲間の黄金聖闘士を実験台にするなんて……。


「最初の時はなぁ……。ミロもカミュも、まだ六歳。幼児といえる年齢だろ。そのぐらいの子って、見た目じゃ男の子と女の子の区別が良く分からない事が多いからさ。修練中は俺達も全然、気付かなかったんだ。それが夕方過ぎに突然、ミロが泣きながら人馬宮に駆け込んで来て。何事かと思えば、大泣きしながら『アレがない!』と……。」
「アレ?」
「×××だ、×××。話の流れ的に分かンだろ、ンな事くらい。」
「っ?!」


デスマスク様の直接的な言葉に、声を失う私。
真っ赤に染まった私の顔を見て、サガ様は呆れたように溜息を吐く。


「デスマスク。女性の前で、そのような言葉を使うものではない。全く、お前はいつまで経っても品がないというか、子供っぽいというか……。」
「あー、うっせぇ、うっせぇ。コイツが鈍いから補足してやっただけだろが。」
「良いのです、サガ様。この方は私の事を女だとは一ミリも思っていないのですから。今更、気にしてはいません。」


膝の上でスヤスヤと寝てしまったシュラ様の艶々黒毛を撫で擦りながら、小さく溜息を吐く。
デスマスク様とは、もう六年の付き合いだもの。
きっと、良くて妹、悪くて召使い程度にしか思われていない。
私は彼の中では『女』ではないのだ、それくらい、ちゃんと理解している。


「でさ。ミロの身体を確認したら、確かにアレがない。もしやミロだけの事ではないかもと思い、サガと手分けして当時の候補生全員を調べたところ、何とカミュもなくなってた。」
「それで、二人のその日の行動を事細かに調べたら、お昼に双魚宮でお茶をご馳走になったというんだ。アフロディーテに問い質したところ、直ぐに白状したよ。新種の毒薔薇を使って作ったエキスを混ぜ込んだクッキーを出した、と。」
「全く、アイツもイカれてやがる。幾ら黄金候補だっつっても、まだ幼児だぞ。耐毒修行をしてるとはいえ、命の危険があるかもしンねぇってのに。」


だから、サガ様は病気だと、そう仰ったのだわ。
これは一過性の病(ヤマイ)、新種の毒薔薇が育った、その時だけ湧き上がる、方向性の間違った情熱なのだと。


「ミ、ミィ。」
「アイオリア様?」


それまで隣で大人しく座っていたアイオリア様が、スリスリと手の甲に擦り寄ってきた。
どうしたのかと思いながら、頬や頭を撫で返して上げると、更にしっかりと頭を擦り付けてくる。
……あ、そうか。
アイオリア様にとって、これは二度目の被害。
アフロディーテ様の餌食(と言って良いかは分からないけれど)になるのは二回目なのよね。


「大変でしたね、アイオリア様。」
「ミィー。」


ふわふわの毛に覆われた小さな頬を、片手で包み込むと、ピタリと擦り寄るのを止め、指先を遠慮がちにペロペロと舐めてくる。
それが擽ったくもあり、心地良くもあり。
そんなアイオリア様の仕草が、とても可愛らしく見えて、またもや胸がキュンキュンとした。





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