それから暫く後。
デスマスク様と私は、横に並んで応接ソファーに座り、教皇補佐のお二人と向かい合っていた。
デスマスク様と私の間にはアイオリア様、そして、私の膝の上にはシュラ様がピンと背中を伸ばして座っている。
その背のスッと伸びた線が愛おしく、話の間も撫でる手を止められなかった。


「しかし、考えてみると凄い光景だな。」
「今、アンヌの膝にはシュラが乗っていて、お前達の間にはリアが座ってる。これを実際の姿に置き換えたらなぁ……。想像してみたら凄まじい事に……。」
「ですから、想像はしないでください。」


私の膝の上に、あの図体の大きなシュラ様が乗っている光景など、とんでもない話だわ。
でも、実際はそうなのよね。
この可愛らしい黒猫ちゃんが、間違いなくシュラ様なのだから。


「で、何があったんだ?」
「分からねぇ。俺達が磨羯宮を訪れた時にゃ、もうこうなった後だった。」
「私が買物に出掛ける前には、お二人とも人間の姿でしたし、何でもなかったんです。特に変なところもなかったと思います。」
「それが戻った時には、猫になっていた、と……。」


本当に何が起こったのか、私にはサッパリだ。
デスマスク様は猫化するウイルスかもしれないと言っていたけれど、そのような蔓延性のある恐ろしいものではありませんようにと、願う事しか出来ない。


「本当に変わった事はなかったのかい、アンヌ? 誰か知らない人が訪ねてきたとか、或いは変なものを食べたとか。」
「私がいた間は、誰も来ていません。食事だって、昨夜も今日のお昼も、シュラ様は私と全く同じものを食べています。食事に問題があるなら、私だって同じように猫ちゃんに変わっていそうなものですけれど。」
「アイオリアも猫化してンだから、昼メシじゃねぇだろ。食いモンが怪しいとすりゃ、テーブルに出てた茶と、茶請けの菓子じゃねぇのか。」


デスマスク様の言葉に、お二人の鋭い視線が私に向けられる。
確かに、猫ちゃんと化した二人は、お茶を飲み、クッキーを食べながら打ち合わせをしていた。
でも、お茶と言われても、彼等に出したアイスティーは作り置きで冷蔵庫に冷やしてあったもの。
クッキーも私が自分で焼いたものだもの。
どちらも何も入っていない、それは私が保証出来る。
だって、両方とも私が味見をしているのだから。


「そのクッキー、焼いたのは、いつだ?」
「今朝です。」
「じゃあ、アイスティーを作ったのは?」
「昨夜ですけど――、あっ!」
「ミャッ?」
「ミィッ?」
「どうした? 何か思い出したのか、アンヌ?」


問答を続けていて、私は不意に『ある事』を思い出していた。
思わず上がる大きな声。
それに驚いたのか、膝の上のシュラ様と、横に座っているアイオリア様が、同時にビクッと身体を揺らした。
シュラ様に至っては、首だけクリンと振り返って、私を見上げてくる。
ううっ、見返り美人ならぬ、見返り美猫ですね、シュラ様。
何て可愛いの、キュンキュンしちゃう。
その可愛さに、思わず首の下を何度も何度も撫で上げれば、ゴロゴロと心地良さげな音が、シュラ様の喉から聞こえてきた。





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