「書類が真っ二つに切れた、だと?」
「これで分かったろ? ソイツはシュラ。こっちがアイオリア。」
アイオリア様の身体も、シュラ様と同じく応接テーブルの上に降ろしてあげれば、トコトコと渡ってアイオロス様の前へと向かう。
呆然とする彼の前まで辿り着くと、その場にペタリと座ったアイオリア様は、恥ずかしそうに「ミィッ。」と小さく鳴いた。
「……リア?」
「ミィッ。」
「本当にアイオリアなのかい?」
「ミッ。」
恐る恐る伸ばされたアイオロス様の手が、アイオリア様のフワフワの頭に触れる。
すると、それまで強ばっていた猫ちゃんから、「ミィ。」と安心したような声が上がった。
目を細めて、その手に擦り寄る愛らしい仕草には、流石のアイオロス様もすっかり心を魅了されてしまったようだ。
半瞬後には、ヒョイと小さな身体のアイオリア様を抱き上げ、破顔して頬擦りを始めたのだから。
「可愛いなぁ、リア! 可愛い、可愛い! このまま取って食べてしまいたい! 可愛過ぎるぞ、リア!」
「ミ、ミィ……。」
「オーイ、あンまやり過ぎンなよ。って、聞こえてねぇな、あの弟バカには。」
立派な太い腕で抱き締めた上での、目にも止まらぬ早さの光速頬擦りスリスリ。
何だか、擦れた頬から煙でも上がりそうな勢いなのですけれど。
しかも、アイオリア様が徐々にグッタリしてきているように見えるのですけれど。
「気のせいじゃねぇ。放っておくと、完全にノビちまうぞ、あの猫。」
「ミャン。」
呆れ顔で見遣るデスマスク様と、心配そうに見上げるシュラ様。
言うが早いか、アイオロス様の腕の中の猫ちゃんは、その凄まじい頬擦り攻撃(?)にグッタリと伸び、腕の中から二つ折りにダランと垂れ下がってしまったではないか。
「ミ、ミィィ……。」
「この馬鹿アイオロス! お前は加減というものを知れ!」
――ゴチン!
「い、痛ぁ……。」
「可哀想に、アイオリア。大丈夫か?」
「……ミィ。」
あ、アイオロス様が、サガ様に頭を殴られた……。
英雄と言われるアイオロス様が子供みたいになっちゃうなんて、猫アイオリア様の可愛さ、恐るべし。
グッタリしたアイオリア様は、サガ様の手で無事に保護されたけれど、大丈夫でしょうか?
かなりの瀕死状態、よね?
「オイ、ちょっとコッチ貸せ。」
「何をする気だ、デスマスク。」
「イイから任せろ。アンヌ、コイツをギュッと抱き締めてやれ。胸に当たるようにギューッとな。」
「え、ええっ?!」
「ミ、ミギャ!」
その言葉を聞いた途端、テーブルの上のシュラ様が戦闘モードに突入した。
尻尾をピンと上げ、毛を逆立て、更には歯を剥き出しにして、デスマスク様を威嚇する。
しかし、相手は猫。
臆する事なく簡単にシュラ様をテーブルへと押さえ付けると、私にアイオリア様を手渡した。
押さえ付けられたシュラ様は、ギャーギャーと悲鳴のような鳴き声を上げて、彼の手の下で暴れているが、それは無駄な動きにしかならない。
「アイオリア様? アイオリア様、大丈夫ですか?」
「……ミ、ミィ。」
最初こそ弱々しい鳴き声だったが、強く抱き締めて、背を柔らかに撫でている内に、次第にシャキッとしてくる小さな身体。
そして、大して時間も経たない内に、完全に回復したらしいアイオリア様が、スリスリと頬に擦り寄ってきた。
あぁ、やっぱり可愛いわ、アイオリア様。
フワフワで、愛らしくて……。
「コイツもムッツリだわ。アンヌに抱っこされたら一発回復だったろ。やっぱ凄ぇな、オマエのオッパイ効果。」
「ミギャー!」
何やらゴチャゴチャと言われているようだけど、気にしない。
折角、デスマスク様がシュラ様を押さえ込んでくれているのだから、その隙にフワフワのアイオリア様の触り心地をたっぷりと堪能しておこうと、私はここぞとばかりに耳やら頭やら背中やら、モコモコの猫ちゃんをアチコチ撫で回した。
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