「ミャ、ミャン。」


膝に擦り寄るシュラ様とアイオリア様の頭を撫でていると、甘えるような鳴き声が聞こえ、次いで、左の腿をポムポムと突っ付かれる感触がした。
見れば、頭を擦り付ける事を止めたシュラ様が、私の腿を前足で叩いている。


「どうかしたのですか、シュラ様?」
「ミャン。」


何事かと小首を傾げながら尋ねれば、突っ付く事を止めて伸び上がるシュラ様。
そのまま、後足立ちの体勢で、細く長い前足をコチラへと伸ばした。
まるで何かを催促するような仕草だ。


「もしかして、抱っこ?」
「ミャン。」


明らかに語尾にハートマークが付いているわ。
でも、ここで甘えさせちゃ駄目よ。
クセになったら困るもの。
と思いつつ、左手は無意識の内にシュラ様を抱えていた。
うぅっ、こんな可愛い仕草をされたら、無視なんて絶対に出来ないわよ。


抱き抱えると同時に、待っていたように始まる頬っぺたスリスリ攻撃。
擽ったいけど、その擽ったさが心地良い。
ピンと伸びた髭のチクッと刺さる感触も、また何とも……。


「…………。」


シュラ様との戯れに浸っていると、不意に感じた、突き刺さるような視線。
ハッとして見下ろせば、右膝に擦り寄っていた筈のアイオリア様が動きを止めて、ジッとシュラ様と私を見つめているではないか。
猫故に無表情ではあるが、瞳の色は羨ましげでいて、かつ、とても悲しげだ。
何だか、見ていて居た堪れない気分になってくる。


「あの、シュラ様。」
「ミャ?」
「アイオリア様も……、抱っこしたいです。抱っこして良いですか?」
「ミャ?」


何を言っているのか分からない。
そんな様子で知らん振りを決め込んだのか、私の言葉を無視して、頬っぺにスリスリを再開するシュラ様。
全く、猫になっても横暴なのだから、この人は。
大体、ココにきて急に本物の猫の振りだなんて、通用する訳がない。


「シュラ様。言葉が通じない振りしても無駄ですよ。」
「ミャ?」
「可愛く首を傾げても無駄です。分かってますでしょ。アイオリア様も抱っこして上げたいんです。良いですか?」
「ミャー。」


こうなれば猫である事を利用して、完全無視を決め込んだらしい。
私が何を言おうとスリスリを止めようとはしてくれない。
挙句の果てには、ザラリとした長い舌でペロリと頬まで舐め出す始末。


「ひゃっ?! もう、いい加減にしてください!」
「ミ、ミャ!」
「シュラ様がそういう態度を取るなら、こちらにだって考えはあります。」


私は尚も頬擦りを続けようとするシュラ様の狭い額に人差し指を押し当てて、その頭を頬から引き離した。
黄金聖闘士といえども、所詮、今は猫。
何とか頭を近付けようとシュラ様も粘ってはくるが、グッと容赦なく指先に力を籠めれば、難なく押さえ付けられる。


「もうシュラ様のためにランチを作るのは面倒です。これからは帰って来なくて良いですから、食堂に行ってください。あとジンジャークッキーも焼くのが大変なので、金輪際、もう作りません。」
「ミ、ミギャ?!」
「シュラ様が元の姿に戻ったら、私は自分の部屋で寝る事にします。もうシュラ様とは一緒に寝ません、絶対に。」
「ミ、ミャーッ!!」
「嫌ですか? なら、抱っこくらい許してくれても良いですよね?」
「…………。」
「良いですよね、シュラ様?」
「……ミャ。」


そっぽを向いてしまったシュラ様の、小さく微かな返事。
勝利をもぎ取った私は、悠々と勝ち誇った気分で、右腕にアイオリア様を抱き上げた。





- 3/5 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -