猫ちゃん二匹に纏わり付かれるのが余程嫌なのか、デスマスク様は苛立たしげに腕を振った。
だが、そこは流石に猫。
デスマスク様がどんなに身を捩って振り落とそうとしても、俊敏に反応し、身体の上をアッチへ行ったりコッチへ来たり。
元来の身体能力もあるのかもしれないけれど、猫ちゃん二匹の身のこなしは、見ていて惚れ惚れする。
最終的には共に両肩に乗って、デスマスク様の髪の毛を、左右からワシワシと掻き毟っているではないか。


「ヤメロ、オマエ等! 髪の毛は触ンじゃねぇ!」
「良いじゃないですか、髪の毛くらい。デスマスク様の髪の毛は意外にふわふわしているので、猫ちゃん的には、きっとじゃれ付きたくなるんです。」
「じゃれ付きてぇンなら、もっと別なモンにじゃれ付きゃイイだろが。猫じゃらしとかよぉ。何も俺の大事な髪を引っ掻き回す必要なんざねぇっての。」
「大事な、って……。まさかデスマスク様、ハゲになり掛けているとか……。」
「違ぇっ!!」


そうですよね、まさか二十代前半でハゲが始まっているなんて、そんな事はないですよね。
何て思っていると、目の前では、流石に我慢の限界がきたのだろう、髪に纏わり付く猫ちゃん達を力任せに吹き飛ばし、デスマスク様がフンと鼻を鳴らす。
一方、飛ばされた二匹の猫ちゃんは、一瞬だけ吃驚した様子だったが、直ぐにワラワラと私の横に近付いてきて、甘えるように頭を膝に擦り付けてきた。
ううっ、何て可愛いの、この子達。


「ハゲじゃねぇが、元々、毛がねぇんだよ。だもんで、貴重な髪を減らされたら、たまったモンじゃねぇって事だ。」
「……は?」


今、何と?
毛がない?
何を仰るやら、ちゃんと髪の毛が生えているじゃないですか。
え、まさか、それは実はカツラだとか、そういう恐ろしい事をカミングアウトするつもりじゃないですよ、ね?


「長年、俺のトコに勤めてたンだ。アンヌも知ってンだろ。俺がアルビノだって事は。」
「アルビノ? はぁ、何だかそのような事を仰っていたような記憶があるような、ないような……。」
「どっちだよ。」


アルビノ、劣性遺伝子による稀少で美しい個体。
色素の限りなく薄い皮膚と、赤い色の瞳が特徴。
デスマスク様の病的に白い肌と、人を射抜く血色の紅い瞳は、まさにそれだ。
昼の光を嫌い、夜の闇を好む。
日光を苦手とする私にとって、お仕えするには都合の良い主人だった。
ただ、その紅い瞳が抑えきれない欲求にギラギラと輝く時は、人肌の温もりを求め、人間の温かな血を浴びるために殺戮を繰り返していた。
その事実は勿論、知っていたけれど。


「アルビノの中でも、ちょっと珍しいタイプでな。首から上だけ毛が生えてる。逆に言やぁ、首から下はツルッツルだ。」
「……はい?」
「髪と眉、後は睫。コレしかねぇンだよ、毛が生えてるトコは。だから、俺にとって髪の毛は凄ぇ大事なモンなの。分かるか?」


言われてはじめて思い当たる。
磨羯宮に移動になった当初、お風呂やお手洗いの掃除の時に、その、シュラ様の……、あ、アレな毛やコレな毛が多くて、私はそれに吃驚した。
巨蟹宮にいた頃、そういうものを目にしなかったのは、そもそもデスマスク様には生えてなかったからだったのだわ。


「俺がコイツ等みてぇに猫になったら、アレみてぇになンだろうな。ほら、ピラミッドじゃねぇし、そンなような名前の猫いたろ?」
「スフィンクス、ですか?」
「おー、そうそう。毛のねぇ猫。間違いなくアレだな。」


私はシュラ様の艶々した黒い毛を撫でながら、紅い瞳をした毛のない猫のスフィンクスの姿になったデスマスク様を思い浮かべ、何となくモヤモヤした気持ちになった。





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