と、取り敢えず、どうしましょうか、この猫ちゃん。
首だけしか出てきてないのですが……。


「ミギャー!」
「煩ぇ、シュラ! オマエは黙っとけ!」
「キシャー!」


よっぽど、『ぷるぷる大作戦』が気に食わなかったのですね、シュラ様。
デスマスク様に摘み上げられたまま、酷くご立腹の様子で暴れている。
といっても、所詮は猫の姿。
どんなにジタバタしようが、デスマスク様の手の中からは逃れられないみたい。


「……あっ、猫ちゃんが。」


私の胸に釣られて(かどうかは分からないけれど)、顔を出してみたものの、暴れるシュラ様と、それを叱りつけるデスマスク様の不穏な空気に恐れをなしたのだろうか。
折角、出てきていた猫ちゃんが、またゆっくりとテレビ台の下に引っ込もうとしている。
今、ここで元に戻られては、もう引き擦り出す方法がない。
同じ手は二度も通用しないだろうし……。
えぇい、迷ってる場合じゃないわ!


――ガシッ!


私は元に戻ってしまうのを阻止しようと、慌てて近寄り、その猫ちゃんを掴んだ。
までは良かったのだけれども……。


「ど、どうしましょう、これ……。」


何せ、テレビ台の下から出ていたのは、首から上のみ。
必然的に私が掴んだのも、その小さな頭だった。


「お、良くやった、アンヌ。そのまま引っ張り出せ。」
「む、無理です! 私が掴んでいるのは頭ですよ! このまま引っ張ったら、首が抜けちゃいます!」
「ンなモン、多少だ、多少。問題ねぇ。」


問題ない訳ないじゃないですか!
引っ張り出すだなんて、絶対に無理ですって!
そんな可哀想な事、出来る訳ない!


「チッ、しゃあねぇな。ったく……。」


そう言うと、デスマスク様はシュラ様を解放し、それから私の横に並んで身を屈める。
ゴソゴソと手をテレビ台の下に這わせ、どうやら猫ちゃんの身体を掴んでいるらしい。
そして、そのまま掴んだ身体を引っ張り出そうとするのだが、流石に、この隙間の狭さ。
身体の一部が引っ掛かるのか、なかなか思うように出てきてはくれない。
そのせいか、猫ちゃんは痛そうに悲鳴まで上げる始末。


「ミ、ミイィィ!!」
「あー、煩ぇ! クソ猫が!」
「デスマスク様が無理に引っ張るから、痛がっているんじゃないですか?」
「ンな事、言ってもだな。こうするしかないだろが。」
「猫ちゃん。お願いだから出てきて。抵抗するから引っ掛かって痛くなるの。分かる? 身体の力を抜いて、引っ張り出すのに協力して。ね、お願い。」


無理矢理に引っ張るのは可哀想過ぎる。
私は頭を掴んでいた手を離し、その代わりに、優しく頭を撫でて上げた。
すると、どうだろう。
それまで、何かが引っ掛かって出てこなかった猫ちゃんの身体が、スッと引っ張られるままにテレビ台の下から出てきたではないか。


「ったく。コイツもシュラと同じ、どうしようもねぇムッツリ野郎だな。」
「……え?」
「コッチの話だ、気にすンな。」


出てきた猫ちゃんは、テレビ台の下にいたせいで多少、埃塗れになっていたが、フワッフワの金茶の毛をした可愛らしい子だった。
軽く手で埃を払って上げると、「ミー。」と細く鳴き声を上げ、それから手に頬を擦り付けてくる。
その仕草の愛らしさに、思わず抱き締めたい衝動に駆られた。





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