「で、見えましたか? テレビ台の下。」
「おー、見えた見えた。確かに何かいるな、こりゃ。」
「ですよねー。」


もう一度、身を屈めてテレビ台の下を覗き込んだ。
その横で、デスマスク様、更には黒猫姿のシュラ様までも頭と上体を下げ、腰を突き上げて同じように覗いている。
そして、真っ暗で良く見えない狭い空間の中、猫の目らしきものが二つ、キランと光って見えた。


「猫ちゃーん。出てきてください。」
「オイ、コラ、早く出てこい。面倒掛けンな。」
「デスマスク様、そんな言い方したら、益々怖がって出てこなくなります。」
「ミャーン。」


流石に、その体勢のまま言い争うのは辛くなり、身体を起き上がらせた。
既に飽きてしまったのか、シュラ様は大きな欠伸をした後、優雅に後ろ足で顎の下を掻いていて、まるで他人事。
元々のシュラ様の性格もあるけど、猫になったせいか、自由気儘具合に拍車が掛かっている気がする。


しかし、出てこない猫ちゃんを引っ張り出すには、どうしたものか……。
どうやら酷く怯えていて、自分から出てくる気は更々ないらしい。


「ミャッ。」
「や! ちょっとシュラ様!」


床にペタンと座り込んだままでいたところに、またもや膝の上に飛び乗り、胸の谷間にスリスリと顔を擦り付けてくるシュラ様。
遂には、擦り付けるどころか、谷間に顔をシッカリと埋めてきた。
全く、猫の姿になった事で見境がなくなったというか、遠慮がなくなったというか。
デスマスク様の前だというのに、平気で胸に顔を埋めて、ゴロゴロと喉を鳴らしている。


「おっ、それだ。タマにはオマエも良いアイディア出すじゃねぇか、シュラ。」
「ミャ?」
「はい?」


何の事やら分からず首を傾げる私と、膝の上に乗るシュラ様。
そんな私達を後目に、デスマスク様はシュラ様の首根っこをヒョイと持ち上げて私から引き離した。
勿論、シュラ様は手足をバタつかせて暴れるが、デスマスク様にとっては何処吹く風だ。


「ミャ、ミギャー!」
「アンヌ、もっかい屈め。で、その下を覗き込め。」
「はぁ……。こうですか?」
「そうそう。ヤツが見えてるか?」
「えぇ、瞳らしきものが見えます。」
「じゃ、そのまま顔を上げろ。」
「ミャミャッ! キシャー!」


顔を上げる?
良く分からないが、取り敢えず頭を上げてみた。
が、デスマスク様からは「違ぇ、そうじゃねぇ。」と苛立った声が飛んできた。


「首から上だけ上げンの。身体はそのまま。」
「身体はそのままって……。こう、ですか?」
「ミギャー!」


凄く苦しいんですが、この体勢。
支える腕がプルプルしてきちゃう。
うう、崩れる崩れるっ!


「そのまま、ちょっとだけ身体を揺らせ。上下じゃねぇ、左右だ。」
「そ、そんな無茶を……。」
「おっ! 出てきたぞ!」
「……へ?」


――ズ、ズリズリ……。


まるで何か怪しい物体でも這い出てくるかの如く、ズリズリと微かな物音がして、次いでピョコンと台の下から出てきたのは……、猫の耳だ。
どうやら奥深くに引っ込んでいた猫ちゃんが、直ぐ手前まで出てきたらしい。


――グググ、ポフッ!


「わ、出たっ! 猫の顔!」
「ミャッ?」


テレビ台の下の細い隙間から、ピョコッと出てきた猫の小さな頭。
か、可愛い事は可愛いのだけど、面白い光景というか、何だこれは……。


「お、上手くいったな。オッパイぷるぷる大作戦。効果は絶大だ。」
「お、オッパイ?!」


そ、それでワザとあんな体勢をさせた訳ですか。
シュラ様が変な悲鳴みたいな鳴き声を上げて怒っていると思ったら、そういう事だったのですね。
私は呆れの溜息を吐き、デスマスク様に摘み上げられて暴れるシュラ様と、多分、アイオリア様であろうテレビ台の下からはみ出した頭だけの猫ちゃんを順に眺めた。





- 7/10 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -