はぁ、と一つ大きな溜息を零すと、私は膝に摺り寄る黒猫の頭から首、背中へと手を滑らす。
ゴロゴロと喉を鳴らして目を細め、それからヒョイと身軽に膝の上に乗った猫ちゃんは、またしてもスリスリと胸の谷間へと顔を埋めてきた。
先程の遣り取りで、この猫ちゃんはシュラ様で間違いないという結論に達した。
ならば……。


「この部屋のどっかに、もう一匹いるってこったな。」
「アイオリア様、ですね。」


私は膝の上から猫ちゃん、もといシュラ様を下ろすと、キョロキョロと部屋の中を探るデスマスク様の後に続いた。
シュラ様のように何処かに嵌り込んでやしないかと、家具と壁との細い隙間を一つ一つ覗いて回る。
後をついてソファーを下りてきたのだろうか、背後から「ミャン。」と鳴くシュラ様の声が聞こえた。


「ソレっぽいのはいねぇなぁ。」
「何処かへ逃げちゃったのかもしれませんね。」
「何処かって、ドコだよ?」
「さぁ……。」


私達がこの部屋に入った時、ココは窓もドアも閉まっていた。
だから、仮にアイオリア様も猫の姿になってしまったというのであれば、ココから外へ出るのは難しいだろう。
でも、隠れていそうな場所に、その姿は見つからなかった事だし……。


「ミャーン。」
「シュラ様? どうかしたんですか?」


思案しながら首を捻っていると、少し離れた場所でシュラ様が一つ、大きな鳴き声を上げた。
しかも、こっちへ来いと言いた気に右前足をこまねいて私達を呼んでいる。
傍に寄ると、再び「ミャン。」と小さく鳴き、目の前のテレビへと顎を振って見せた。


「テレビ? でも……。」


裏側にはいなかったし、テレビ台の中、DVDなどが収まっている隙間も見たけど、何処にも何もいなかった。
残っているのは、テレビ台の下だけだ。


「下っつっても、狭過ぎンだろ。」
「ですよねー。」


その隙間、僅か数センチ。
幾ら猫でも、この隙間には潜り込めないだろう。
でも、シュラ様がこう言って(鳴いて)いるんだから、何かあるのかもしれないし、見るだけ見ておくべきなのかもしれな――。


「…………。」
「どうした、アンヌ? なンかいたか?」
「いたというか、見えた気が……。」
「だから、何が?」
「目……、みたいなものが。」


私に聞いても埒が明かないと思ったのか、デスマスク様も自ら身体を床に這い蹲らせて、テレビ台の下を覗き込む。
頭を床にくっ付けて、お尻を高く上げた姿は酷く滑稽だけど、笑っちゃいけない。
と思っていた矢先……。


「ミャッ!」
「うおっ?! って、何しやがる、テメェ!」


シュラ様(黒猫姿)がデスマスク様のお尻に、華麗なジャンピングキックを食らわせた。
考える事は一緒ですね、シュラ様。
私もデスマスク様のお尻を蹴っ飛ばしたいと一瞬だけ思いました。


「ふざけんな、シュラ! あ!」
「まぁまぁ、落ち着いてください。相手は猫ちゃんですよ。」
「猫っつーか、シュラだろ、ソレ!」
「確かにシュラ様ですけど、今は猫ですから。」


まるで何事もなかったかのように、ツンと澄ました顔をして「ミャン。」と一声鳴いた後、シュラ様は床に跪いていた私の膝の上に、当たり前の如く乗ってくる。
そして、目の前で怒りの小宇宙を沸々と滾らせているデスマスク様を軽く無視し、またもやスリスリと私の首筋や鎖骨の辺りに顔を擦り寄せるのだった。





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