ならば、取り敢えずは、まず確認を。
そう思って、腕の中でゴロゴロと鳴き続ける黒猫の両脇に手を入れて、その身体を目の前にブラーンと翳した。


「……雄か?」
「はい、雄です。」


しかも、ちょっと興奮気味です。
などという事は、デスマスク様には黙っておこう。
うん、これで益々、シュラ様である可能性が高くなった。


私はそのままソファーに腰を掛けると、横の空いたスペースに猫ちゃんを座らせた。
小さく小首を傾げて私を見上げてくる小さなその頭を撫でてやれば、尖った耳を垂れ、気持ち良さ気に目を細める。
この触り心地の良さも勿論だけど、シャンと背を伸ばし、されるがままに大人しく撫でられている、その仕草。
ううっ、可愛い。
堪らなく可愛い。


「あ、貴方はシュラ様、ですか?」
「ミャ。」
「っ?!」


返事……、した?
今、私の質問に返事したよね、この子……。


「偶然かもしれねぇ。アンヌ、もっかい聞いてみろ。」
「は、はい……。えっと、シュラ様?」
「ミャッ。」
「っ!!」


返事したっ!
間違いなく、今、「ミャッ。」って返事したわ!
いやいや、待て待て、慌てちゃ駄目よ、アンヌ。
偶然が二回続いただけなのかもしれないし、ここは用心に用心を重ねて……。


「も、もしシュラ様で間違いなければ、右手を上げてくれます?」
「ミャン!」


――シャッ!


「オイ、上がったな、右の前足……。」
「はい、間違いなく上がっていますね。」


目の前の黒猫は、招き猫よろしく右前足を顔の横まで上げ、クイクイと動かしてみせている。
これはもう百パーセント間違いない。
シュラ様だ、この猫ちゃんはシュラ様なのだわ……。


「いや、まだそうと決まったワケじゃねぇ。ちょっと待ってろ。」


いや、もう確実も確実過ぎるのですけど、と思う私の事など省みず、キッチンへと姿を消したデスマスク様は、大した間も開けずに立派なカボチャを抱えて戻ってきた。
カボチャを見る度に思い出す、あの魔窟な本棚に押し込まれていた干からびたカボチャ。
一体、何故、こんなところにあるのかと問い質したが、シュラ様から返ってきた答えは「俺は知らん、誰かが置いたのだろう。」という簡潔極まりないものだった。
その誰かというのは、シュラ様以外に有り得ないんですけどね。
あんなゴミ部屋に足を踏み入れる人など、そこに平然と住んでいた彼しかいやしないのだから。


「どうするのですか、そのカボチャ?」
「どうするも、こうするも……。」


ゴトリと床に置くと、私の横に座っていた猫を引っ掴み、その前へと下ろす。
無理に引き摺り下ろされたからか、私の横から引き離されたからか、猫ちゃんの顔は心なしか険悪だ。


「よーし、イイか? オマエがシュラなら、コイツを切り刻んでみせろ。それが出来たら信用してや――。」


――シュパッ!


デスマスク様が言い終わるか終わらないかの刹那。
目を尖らせ、ギラリと瞳を輝かせた黒猫の右手が、ヒラリと一閃。
すると、目の前のカボチャがゴトリと音を立てて真っ二つに割れた。


「わっ!」
「お、おー。」


――シュパパパパッ!


次いで、乱れ討ちとばかりに両手を凄まじいスピードで踊らせる。
すると瞬きの間に、あの固そうなカボチャが、見事な角切りへと姿を変えていた。


「……見事。」
「流石、シュラ様ですね。」
「ミャーン。」


自慢気にフンと鼻を鳴らした後、悠々とソファーに飛び乗り、再び私の膝に擦り寄ってくる猫ちゃん、もといシュラ様。
その可愛らしい姿を見下ろしながら、今晩の夕食はカボチャスープとカボチャコロッケに決定だわと、そんな事を現実逃避気味に思っていた私だった。





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