可愛い。
可愛い、本当に可愛い。
もうずっとココで飼ってしまいたい。
あぁ、でも、シュラ様はこの子を飼う事、許してくれるでしょうか?


――ギュ、ギュー。


腕の中でゴロゴロと擦り寄ってくる仕草に、思わずギュッと抱き締めた。
すると、これまた嬉しそうに目を細めて、首筋にスリスリと顔を擦り寄せてくる、その感触の心地良さときたら。
柔らかくて滑らかな短い毛足が、肌に触れる擽ったいような、この感触。
もう何と言ったら良いのか、本当にうっとりとしてしまう。


「オイ、アンヌ。浸ってるトコ、悪ぃンだが、コイツ、タダの猫じゃねぇンじゃねぇの?」
「……は?」
「聖域内に野良猫がいるなんざ、聞いたコトもねぇぞ。大体、コイツ、どっからこの部屋に入ってきたってンだ? ココはそこらの雑兵の部屋じゃねぇ。十二宮の一つだぞ。」
「確かに……。」


言われてみれば、そうだ。
何処から来たのだろう、この猫。
窓は閉まっているし、入口だってドアが閉まっていた。
そもそも、十二宮の階段を、この磨羯宮まで上ってきた事が不思議でしかない。
しかも、その途中で幾つもの宮を抜けなきゃならないのに。


「つか、その猫。見れば見る程、シュラそっくりに見えてくンだが……。」
「あ、デスマスク様も思います? シュラ様みたいですよね、この黒猫ちゃん。」
「いや、シュラみてぇっつーか、シュラなンじゃねぇか、コイツ?」
「え? はあぁ?!」


こ、この猫ちゃんがシュラ様?!
まさか、そんな馬鹿な事がある訳がない。
シュラ様は人間であって、猫じゃないもの。
そもそも人間が猫に変わるだなんて、そんな話、映画や小説の世界じゃないのだから有り得ないでしょう、どう考えても。


「だって、コイツ。見た目もシュラみてぇだし、オマエの腕の中にいて満足気な様子もアイツらしいし、つか、猫にしちゃあ、ちと擦り寄り過ぎだろ。」
「ま、まぁ、それはその……。」


言われてみれば、腕の中の猫ちゃんは大層、ご満悦な表情をして、胸の谷間に顔を擦り寄せている。
喉までゴロゴロと鳴らし、随分と幸せそうだ。
だが、それもデスマスク様が首根っこをヒョイと摘んで私から引き離せば、急に険悪になった。
切れ長の瞳をキリキリと釣り上げ、フシューフシューと威嚇の声を上げてもがく。
そう、今にもデスマスク様に飛び掛かからんとする勢いだ。
ただし、黄金聖闘士相手では、どんなにバタバタ暴れようと、身を捩って逃れようと、その手の中からは脱出など出来ない。
それでも、その猫ちゃんが激しく怒っている事くらい一目で分かる。


「見ろよ。こりゃ、相当に俺が嫌いで、オマエが大好きってこったろ。」
「デスマスク様の持ち方が悪いんじゃないですか? そんな風に首を掴んで摘み上げるから、嫌がられるんです。」
「アホか。俺が抱っこなんてした日にゃ、コレ以上に嫌がられるっての。」


パッと手を広げると、真っ逆さまに床へと落下する猫ちゃん。
だが、そこは流石に猫。
あっと思う間もなく、クルンと宙で身体を回転させて、音もなく見事に着地。
そのまま一直線に私の元へと駆けてきて、腕の中にダイブ。
あっさりと先程と同じ状況に戻る。


「オマエに対する、この粘着質具合。独占欲の強さ。こりゃ、どう考えたってシュラだろ。」
「いや、でも、まさか……。」


腕の中で幸せそうにゴロゴロと鳴く猫は、確かにシュラ様っぽい。
シュラ様っぽいと言えば、シュラ様っぽい。
物凄くシュラ様に似ている。


でもでも!
だからといって、この子がシュラ様だなんて、そんな事。
普通に一般常識で考えたら、ある筈ない。


「ココは聖域だ。一般常識では計りきれねぇ。」
「そんな……。」


信じられる訳がない。
この美人の可愛い猫ちゃんが、まさかシュラ様自身だなんて、そんな事を……。





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