――ガサガサッ……。


っ?!
い、今、何か物音がしたような気が……。


「オイ、アンヌ。ちょっと――。」
「しっ! 今、何か物音がしたんです。」
「あ? 物音ぉ?」


二人して息を潜めて、耳を澄ます。
シンと静けさが支配する部屋の中、身動きすら止めて気配を探っていると……。


――ガサガサッ!


再び、怪しげな物音が響いた。
しかも、今度はハッキリとした音で聞こえてきた。
間違いない、この部屋の中に何か……、いる!


「オイ、あの辺からだな。」
「みたいですね。」


デスマスク様が指をさした先にあるのは、大きな本棚。
今でこそ綺麗に整理され、私が好き勝手にフォトスタンドや山羊のぬいぐるみやらで飾り付けてはいるけれど。
私がこの宮に来る前は、魔の巣窟のような場所だったところだ。
誰の持ち物だか分からない書籍やDVD、それだけならまだしも、何故、本棚に押し込まれているのか謎な物体までギッシリと詰め込まれていた。
ひ、ひからびたカボチャとか、本当に訳が分からないものも多数だったわね。
まぁ、この本棚自体も半分くらいはゴミに埋もれていたけれど。


「別に本棚には異常なさそうですけど……。」
「だな。別にオカシナとこもねぇみてぇだし……、って、オイ。アンヌ、こりゃ何だ?」
「な、何ですか? 何かあったんですか?」
「何って、見りゃ分かる。」


言われて、デスマスク様の指が向けられた先を覗き込む。
それは、本棚の隣に置かれていたブルーのラック。
シュラ様が毎朝、読み終わったデイリー聖域(聖域内で読まれている新聞)を放り込んでおくためのもの。
ガサガサという物音は、どうもその中から聞こえているようだ。


「え、何これ?」
「オマエは、なンだと思うよ?」


ギッシリと詰め込まれた新聞の隙間から、ニョッキリとはみ出している黒いコレは……、あ、足?
動物の足らしき黒くて細い物体と、その横でピラピラ動いているのは、尻尾?


「これって、猫、ですか?」
「みてぇだな。」


そう言って、デスマスク様は新聞ラックの中でもがいていた黒い物体を、ヒョイと摘み上げた。
どうやら頭から突っ込んで身動きが取れなくなっていたらしい。
頭が出た途端、プハッと息を吐き、次いで「ミャーン。」と可愛らしい鳴き声を上げた。


「わっ、黒猫ちゃんだ! 可愛い!」
「つー事は、オマエ等が飼ってる猫ってワケじゃねぇンだな。」
「飼ってないですよ。それくらいは、ご存じでしょう?」
「まぁな。」


言っている間にも、パタパタと暴れて身を捩り、デスマスク様の手から逃れた黒猫は、ヒョイッと身軽に私の腕の中へと飛び込んでくる。
おおっ、流石は猫ちゃん。
見事な身のこなしだわ。


しかも、この触り心地の良さときたら。
黒く短い毛足はビロードの絨毯のように柔らかでいながら弾力があって、いつまでも撫で続けていたくなる。


「ミャーン。」
「わっ、擽ったい!」


腕の中の黒猫は、何処となく幸せそうに目を細め、頬から顎、そして首と鎖骨にかけてスリスリと全身を擦り寄せてきた。
それがまた、擽ったくもあり、心地良くもあり。
兎に角、可愛いったらない。


いや、可愛いと言うよりは、美人な猫という方が当っているだろうか。
切れ長の目に、ピンと上を向いて尖った耳、艶々とした短い毛足。
スッと長い首から伸びた背中の、シャンとしたライン。
全体的にしなやかでシャープな筋肉の線は、凛としていて美しい。


「何だかシュラ様みたい。綺麗な猫ちゃんね。」
「ミャー。」


思わず呟いた一言に、まるで反応するかのように鳴き返してきた猫。
そして、今度は胸元の大きく開いた女官服の隙間から、無防備なデコルテにスリスリと頬擦りをされた。





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