「おーい、シュラ。いるかぁ?」
「し、シュラ様ー? アイオリア様ー? いらっしゃいますか?」


――シーン……。


「誰もいねぇようだな。」
「ですね。」
「オマエはそこに居ろ。中、見てくる。」


人の声どころか、気配すらしない部屋の中。
名前を呼び掛けても、当たり前の如く返事はない。
用心のため私をリビングの入口に残し、デスマスク様は一人、部屋の中へと足を進めた。


「オイ、アンヌ。ココ……。」
「何かありました?」
「服だ。」
「服?」


デスマスク様が指で示したのは、リビングの真ん中にあるソファーとテーブル。
テーブルの上には飲み掛けのアイスティーが入ったグラスが二つと、お茶請けのクッキー、私が買物に出掛ける前に、お二人に出したものだ。
そして、広げた地図とノートが乗っていた。
だが、私のいる場所からは、デスマスク様の言う『洋服』らしきものは見えない。


「特に何の仕掛けもなさそうだな。アンヌ、入ってきて良いぞ。」
「は、はい……。」


恐る恐るリビングの中へと足を踏み入れる。
シーンと静まり返った室内、デスマスク様がガサガサと辺りを探る音だけが、妙に大きく響いている。
言われた場所へ近付くと、テーブルとソファーの間の床の上に、彼が言う通り洋服が落ちていた。
それに、向かい側の床にも同じく男性物のお洋服。


「これ、シュラ様が着ていたお洋服ですね。」
「間違いねぇか?」
「はい。それとコッチに落ちているのは、アイオリア様のお洋服です。白いTシャツとカーキ色のカーゴパンツ姿でしたから、間違いないかと。」


見下ろす足下には、シュラ様のお洋服が一式。
黒いポロシャツとインディゴのシーンズ、それに、黒のソックスと普段履きのスニーカー。
更には、スペイン国旗柄の派手パンまである。
どう見てもシュラ様のもので間違いない。
何しろ、このお洋服全て、昨夜、私が用意したのだもの。


「つか、パンツや靴下まであるってのが解せねぇなぁ……。」
「おかしいですよね。しかも、お二人共なんて。」
「アレじゃねぇの? 急にソッチに目覚めたヤツ等が、打ち合わせ中にムラムラっときて。で、我慢出来ずに服を脱ぎ捨て、ベッドにダイブ……、なンてな。」


もの凄く考え難いです、それは。
大体、ベッドでそのような事をしているとしたなら、寝室から何らかの物音か声が聞こえてくる筈。
だけど、現状は寝室どころか、このプライベートルーム内の何処にも彼等の気配はしない。
つまりは、ココには今、デスマスク様と私しかいないという事。


「つってもなぁ。こンな服脱ぎ捨てた状態で、ドコ行こうってンだ?」
「今、クローゼットの中を見てきたのですが、なくなっているお洋服は一着もありませんでした。」
「つー事は、全裸だってこったろ、アイツ等。サガじゃあるまいし、全裸で出歩くかよ、普通。つか、ンな事して、騒ぎにならねぇなンて有り得ねぇだろが。」


タオルを巻いて出ていった、とか?
いや、正直、それも考え難い。
私はもう一度、ソファーの下に落ちているお洋服を眺めた。
眺めれば眺める程に、酷く不自然に感じられた。
何だろう、この違和感……。


服を脱ぎ捨てた場合、シャツやズボンが、もっとバラバラに散らばって落ちている筈。
実際、シュラ様と私にそういう事があった時は、朝起きると、お洋服は床の上に点々と散乱していた。
でも、これは『脱ぎ捨てた』という雰囲気ではない。
綺麗に一ヶ所に纏まって落ちていて、散乱どころか、履いているものを下から順に床に落としていったといった感じ。
まるで、服を着ていた人が、突然、消えてなくなったみたいな……。


「オイ、それってまさか……。」
「えぇっ? でも、まさか、そんな事は……。」


嫌な予感を覚えて、顔を見合わせるデスマスク様と私。
まさか、神隠し?
この聖域で?
しかも、黄金聖闘士が?
それは有り得ない想像ながらも、酷く現実味が強く、私達は顔を見合わせたままゴクリと息を呑んだ。





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