「やはり、黒も良いな。」
「……え?」


シュラ様がポツリと呟いた一言に、思わず顔を上げると、目を細めて私を眺めている彼と目が合う。
ただ、その目は柳のように細められていても、内側に宿る熱は変わりなく、漆黒の瞳が抑え切れない欲望の色に、爛々と輝いていた。


ドクン……。
隠そうともしない情欲を瞳から注がれて、胸が高鳴ると同時に、嫌な予感も湧き上がる。


「黒も似合うと言ったんだ。お前は、いつも白の下着ばかりだが、こういうセクシーな黒いものも、良く似合う。もっとこういう色気のあるものも身に着ければ良いのに。」
「し、下着は駄目です!黒だと女官服から透けてしまいますから!水着だから辛うじて着てますけど……。」


言葉尻を曇らせる私に対して、シュラ様は益々、楽しそうに余裕の表情をみせる。
手にしていた私のガウンを、近くのデッキチェアの上に投げ捨てると、彼は空いた両手で私の髪を掻き上げた。
こめかみから差し込まれた指の感触に、ゾワリと全身に走る甘い痺れ。
いけない。
これは完全に危険街道まっしぐらのパターンだわ。


「何も普段から黒い下着を着けろとは言ってない。たまには自発的に黒い下着を身に着けて、俺を誘ってくれれば良いのにと、そういう意味だ。」
「そ、そんな事は……。」


無理です、無理、無理!
それって、以前にシュラ様が勝手に購入してきた、あの無駄に透けてるベビードールとか、ほぼレースだけで作られた紐みたいなショーツとか、そんなものを自分から進んで身に着けろって事でしょう!
しかも、それを着て、シュラ様をベッドに誘えと!
私の方から誘え、と!


「もう少し、俺を喜ばしてやろうとか思わんのか、アンヌは?」
「喜ばせるって、そんな……。私は十分、シュラ様に尽くしていると、思います、けど……。」
「生活面の上では、な。だが、夜は俺がお前に尽くしているだろ。何度も満足させてやってる筈だが?」


何処をどう曲解したら、尽くしている事になるんですか?!
あれは私に尽くしているというより、私を好き勝手にしていると言った方が当たってる気がします。
満足させて貰ってるどころか、私はいつも「もう勘弁してください。」と根を上げているのに、全然、手離してくれないじゃないですか?!


私が抗議の声を上げると、それまで楽しそうにしていたシュラ様が、途端に少しムッとする。
と言っても、他の人には、どちらの彼も無表情にしか見えないのだろうけれど。
少々ご機嫌斜めになった彼は、髪に差し入れていた手を抜いたと思ったら、その手を背中に回してグッと力を入れた。


狙いは一目瞭然だ。
背後にある、先程、私のガウンを放り投げたデッキチェア。
そこに押し倒すつもりなのだわ。


「駄目ですよ、シュラ様!」
「む?」


私は両足に力をいれて、目一杯、身体が倒れないように突っ張った。
思い掛けない抵抗にあい、シュラ様は多少、困惑したようだ。


「まだ着いて間もないんですよ。それに、お部屋と違って、ココはプールなんですから。使用人さん達が入ってくるかもしれないですし。」


そう言うと、更にご機嫌斜めな雰囲気を深めるシュラ様。
だが、流石の彼も、使用人さん達に見られたらマズいと思ったのだろう。
押し倒そうとしていた腕から、渋々、力を抜いた彼は、それと同時に、大きな溜息を吐いた。





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