結局、私はシュラ様より少し遅れて、プールへと向かった。
途中、別荘のあまりの広さに迷子になりかけて、水着の上にガウンという情けない格好のまま、使用人さんに道を聞く破目になり。
あまりの恥ずかしさに、本気で穴があったら入りたいと思った。
こんな事なら、シュラ様に「先に行っててください。」なんて言わなきゃ良かった……。


でもでも!
シュラ様ったら、人の横に立って、ジッと着替えを眺めているんですもの!
そうでも言わないと、水着に着替えるどころか、その場で押し倒されかねなかったし!


「はぁ……。」


沈んだ気分でプールへと足を踏み入れる。
だが、そこへ入った瞬間、滅入る気持ちが見事に吹き飛んだ。


「凄い、綺麗……。」


天井がガラス張りの温室プール。
ゆったりとした空間、光を受けて輝くプールの水面(ミナモ)。
プールサイドには籐製のデッキチェアが並び、横には真っ白なパラソルが柔らかに影を作っている。


――パシャーン!


光溢れる静かな空間に、水が弾ける音が響く。
黙々と一人、泳ぐ男性。
シュラ様だ。
揺れるプールの波を掻き分けながら、力強く泳いでいく、その姿。
見惚れずにはいられない。


水面をガバッと掻き分ける腕。
押し寄せる波を物ともせずに弾き返す、その逞しい身体。
そこから感じられるのは、その強靭な肉体の圧倒的な強さ。
私は、その場に立ち尽くし、息を呑んで見ているしか出来ない。


「何をぼんやりしている、アンヌ。」
「あ、あの……。」


私が来た事に気付いたのだろう。
ピタリと泳ぎを止めて、シュラ様がプールから上がってきた。
サバッと重い水面を揺らしてプールから上がる力強さに、私はまた目を奪われてしまう。
そして、ポタリポタリと黒髪から滴り落ちる水滴や、頬や身体を伝い落ちる雫が光り輝く様に、目眩を覚えてしまう。


水も滴る良い男っていうのは、この人の事を言うのだわ。
張り詰めた筋肉のひとつひとつの線と、その筋肉が弾く水滴が、ガラスの天井から降り注ぐ光に眩しく照らされ、そのキラキラとした光の粒が、無駄も隙も一切ないシュラ様の肉体を飾っている。
そんな彼が一歩、足を進める度に、妖しいまでに色気が発散されていくのだ。


「いつまで、こんなものを着ている気だ? 脱がんと泳げんだろう。」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください。」


こんな素敵な人の前で水着姿になるなんて、恥の上塗りにしかならない。
そう思えるくらいに、今のシュラ様は眩し過ぎる。
そのためか、私の着ていたガウンを脱がそうとする彼の手を、無意識に思わず押し止めてしまった。


「どうした、アンヌ?」
「あの、やっぱり恥ずかしくて……。」
「何を今更。」
「あ、やっ!」


私の抵抗など物ともせず、結局は、シュラ様が力尽くでガウンを剥ぎ取ってしまう。
普段は隠されている肌が、その鋭くも熱い眼差しに曝された瞬間、あまりの恥ずかしさと惨めさに、私の全身は震え竦んでしまった。





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