――ぼすっ!


ソファーに座り込むなり、グッタリと崩れ落ちる私。
別荘の玄関前から始まって、この部屋に辿り着くまでの間だけで、こんなにも疲れ果ててしまった。


というのも、教皇宮の長い廊下に匹敵する距離はあるだろう、この別荘の廊下を進む間。
前には案内役の使用人さん、後ろには荷物運びのメイドさんが二人、計三人の使用人さん達にかしずかれて、慣れない私は全身に力が入り過ぎてしまっていた。
しかも、流石は城戸家の使用人さんだけあって、言葉遣いから身のこなしまで、何から何まで完璧。
そんな彼等を前にして、聖域に勤める女官としてのプライドが勝ってしまった。
下手に力を抜けないと言うか、リラックスなんて持っての外だわ。
そんな事を勝手に心の中で決め込んでしまったのだから、この疲労感は自業自得なのよね。


「まだ着いたばかりだぞ。何をそんなに疲れている?」
「こ、こういうところは慣れていないんですから、仕方ないじゃないですか。」
「適度に力を抜け。気を張るな。何のための休暇だと思ってる?」
「そうは言ってもですね……。」


このお部屋だって、決して寛げるとは思えない豪華さだし。
一流ホテルのスイートルームに、勝るとも劣らない立派なお部屋だ。
ベッドには真っ白いレースのゴージャスな天蓋まで付いている。
今夜は私、緊張して眠れないのではないのかしら?
あ、でも、ベッドが豪華だろうと何だろうと、シュラ様が寝かせてくれないだろうから、そこはあまり関係ないのかも……。


「アンヌ、ほら……。」
「え……?」


グッタリとソファーに沈み込んでいた私に、解いた荷物を漁っていたシュラ様が、何かを投げてきた。
慌てて手を伸ばしてキャッチすれば、それはシュラ様が買ってきた例の黒いセクシービキニ。
どうして水着を?
そう思って、首を傾げていると、シュラ様が白いビキニを握り締めて、こちらを振り返る。


「白の方が良かったか?」
「いえ、別にどちらでも良いですけど。」


私のお粗末な水着姿を見せるのがシュラ様だけなら、別にどちらだって同じだ。
どうせ、この休暇中に、両方のビキニを身に着けない事には、不機嫌になるのでしょうしね。


ちなみに、グレーの透けそうなビキニは、あの夜、シュラ様に言われるままに着用し、色々と汚れてしまった挙句、興奮した彼の手によって引き千切られてしまったために、もう廃棄済みだったりする。
たった一回しか身に着けていない、しかも、泳いですらいないのに使えなくなっただなんて、なんて不経済な。
まぁ、あの水着は、例えシュラ様しか、その場にいなくても、とても身に着けて泳ぐ気にはなれない透け具合だったのだから、別に問題はないのだけれど。


「で、これを着ろというのですか?」
「プールがある。まだ昼過ぎだし、泳ぐには良いだろう。」


そう言って、私の目の前で躊躇いなく服を脱ぎ出したシュラ様。
私は慌てて背中を向け、昼間から見るには刺激が強過ぎるシュラ様の裸体から目を逸らした。





- 8/15 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -