「邪魔するぞ〜。……って、あれ?」


カミュ様が帰られてから二時間。
今度は教皇宮から自宮へと戻る途中のミロ様が、ひょっこり顔を出した。
しかし、勢い良く部屋へと入ってきた割には、開けたドアの横にポカンとした顔で立ち止まったままだ。


「どうかされましたか、ミロ様?」
「いや、だってほら、ソイツ等……。」


ミロ様が指を向けた先には、二匹の猫ちゃんの姿。
普段なら、彼が姿を現した途端に飛び掛かってじゃれ付くシュラ様とアイオリア様だが、今日は見向きもせずにチョコンと座ったまま動かない。
そんな猫ちゃん達の反応が信じられなかったようだ。


「こんな事もあるんだな……。」
「へ〜え。オマエのマタタビパワーも遂に燃料切れかよ。猫共に嫌われる日が来るとはねぇ。」
「違う! マタタビパワーなんかないから! 嫌われてもないし!」
「そうですよ、デスマスク様。今日はコッチに夢中なだけで、ミロ様の事を嫌ってなどいませんよ。」


猫ちゃん達の目の前に鎮座するのは、小さなタライの上に作られた、小さな氷山だった。
カミュ様が帰り際に作ってくれたのだ。
猫ちゃん達が涼しく過ごせるように、と。
その氷山の前に、シュラ様はビシッと背筋を伸ばして、アイオリア様は少し猫背気味に背を丸めて座り込み、そこから一歩も動こうとしない。
氷の山から発生する冷気が、余程、涼しいのでしょうね。


「ふ〜ん。カミュの置き土産ねぇ……。」
「今日に限ってはオマエよりモテモテだったぜ、アイツ。猫共がビッタリくっ付いて離れなかったからなぁ。」
「ふ〜ん、そうなんだ。ふ〜ん……。」


み、ミロ様、目が怖いです……。
お願いですから、シュラ様達が原因で、カミュ様と喧嘩したりはしないでくださいね。


「ミー。」
「ん、何だ、アイオリア? こっちへ来いって?」


珍しい。
猫ちゃん姿のアイオリア様が、その可愛らしい前足をクイクイと上下に振って、ミロ様を呼び寄せるように招いている。
こういう仕草をするのは、いつもだとシュラ様の方なんですけれどね。
黒猫ちゃんは首を少し伸ばして顔を氷山に近付け、そこから発散される冷気に当たって、優雅に目を細めている。
ミロ様の存在には、まるで興味がない様子。


「アイオリア様は多分、ミロ様も近くで涼んだらどうかと、誘っているのではないでしょうか。」
「そうなのか、アイオリア?」
「ミイッ。」
「おーおー、随分と優しい世界なこって。」


呆れた声と小さな溜息を漏らすデスマスク様を横目に、ミロ様が猫ちゃん達の横に屈み込んだ。
すると、シュラ様も細めていた目をパッチリと開け、小首を傾げてミロ様を見遣る。
まるで、「いつの間に来たのだ?」とでも言いたげな表情で。
氷山の冷気に夢中になるあまりに、ミロ様の来訪に気付いていなかったのでしょうか、この人は。


「ミャッ。」
「何? 今頃、挨拶かよ? 俺が来た事、知らなかったのか?」
「ミミャッ。」
「全く悪びれもせずに頷いてやがるぜ、この猫。」


流石はシュラ様、見事なマイペースっぷりですこと。
そんな私達の呆れた視線など微塵も感じていない黒猫ちゃんは、フンと小さく鼻を鳴らすと、再びシャンと背を伸ばして、優雅にゆったりと目を細めた。





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