「邪魔をする、アンヌ。」
「あ……。」
「ミャッ?!」


姿を現したのはカミュ様だった。
先程から、近くに居てくれたらと切望していた、まさにその人物の登場。
刹那、それまでグッタリ身動きすらしなかったシュラ様が跳ね起きて、カミュ様の方へと一目散にダッシュしていった。


「ミミャッ!」
「おおっ? 何事だ、シュラ?」


カミュ様の足下から、物凄い勢いの跳躍をみせたシュラ様は、胸元辺りまでジャンプして飛び掛かる。
弾丸と化した黒猫ちゃんを、カミュ様が見事にキャッチすると、シュラ様は嬉しそうにスリスリと顔を擦り寄せ始めた。


「このように飛び掛かって甘えるなど、いつもはミロにしかしないのに、今日はどうしたのだ?」
「オマエの事を待ち詫びてたからだろぉ。」
「私を待っていた?」


猫ちゃん達が、この暑さで死にそうになっていた事を説明すると、その話に納得したのか。
ゴロゴロと纏わり付くシュラ様をシッカリと抱っこし直し、カミュ様は優し気に目を細めた。


「なるほど。私は常に冷気の膜を身体の周囲に纏っているからな。こうしてくっ付いていれば涼しいのだろう。」
「あぁ、それで。この暑さでも、カミュ様は平然としていられた訳ですか。」
「イイよなぁ。夏、苦労しねぇし。」


そう言ってのけたデスマスク様に対し、カミュ様が投げる冷ややかな視線。
そんな視線など感じもしないのか、ヒラヒラと片手を振って、気にも止めないデスマスク様。
この人の図太さは何回、何千回と死のうが変わらないのだろうと思いながら、私は身を屈めた。
未だ日陰の石床の上で、グッタリと伸び伏せっているアイオリア様を抱えて、カミュ様に近付く。


「む?」
「シュラ様よりアイオリア様の方が重症なので、是非、抱っこをして上げてください。」
「オラ。離れろ、シュラ。」
「ミギャー!」


アイオリア様を抱っこしてもらうために、デスマスク様が黒猫ちゃんをカミュ様から引き剥がす。
当然、大暴れして喚き声を上げるシュラ様。
カミュ様の冷気で少し涼めたので、かなり元気を取り戻した様子で抵抗する。
はいはい、こっちへ来てくださいね。
デスマスク様に首根っこを捕まれているのが嫌なのでしょう?


「う……。暑いです、重いです……。」
「そりゃそうだ。むさ苦しい毛の塊だしな。」
「ミャミャッ。」


そのシュラ様は、嬉しそうに首筋にスリスリしてきますけどね。
いつもなら心地良くてホワンとなるところですが、今日に限っては暑いんですよ、私だって。
御自分は涼んだから平気でしょうけれど、私も暑くて死にそうなんです。
猫ちゃんのシュラ様と違って、カミュ様にくっ付いて涼む事も出来ませんしね、私は。


「もうギブアップです。カミュ様、バトンタッチをお願いします。」
「任せるのだ、アンヌ。下手な冷房よりも私の方が役に立つ。」
「冷房と自分の能力を比べンなよ……。」


アイオリア様を右腕に寄せると、空いた左腕でシュラ様を抱えるカミュ様。
普段なら嫌がりそうだが、余程、冷気が気持ち良いのか、喜んでカミュ様に抱っこされて、更には存分に甘えている。
心なしか、カミュ様も嬉しそうに見えるのですが……。


「いつもミロばかりじゃれ付かれて、少し羨ましかったのだ。」
「ミイッ。」
「そうか。アイオリアはミロよりも私の方が好きか。」
「ミャッ。」
「シュラもか? そうか。実は私は猫にモテるのだな。」


両手に花ならぬ、両手に猫ちゃん状態は、今だけの事だと思いますけれどね。
涼しさが戻れば、じゃれ付く相手は、またミロ様に戻ると思います。
とは、流石に口が裂けても言えないので、グッと堪えて黙っている私だった。





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