闇のリズム的真夏のにゃんぱに



「アチぃなぁ……。」
「暑いですねぇ……。」


この数日、一向に下がらない高気温にグッタリとしていた私達。
私達というのは、この宮の女官である私と、様子を見に来たデスマスク様。
そして、月に一度のアレのせいで、猫ちゃんの姿と化しているシュラ様とアイオリア様。


ギリシャといえど山奥にある聖域、冬になれば稀に雪が降る事もあるくらいで、山の気候だからこそ夏でも涼しい筈なのだが。
今年は異常気候なのか、まだ真夏とは言えない時期に、既に早々とこの猛暑。
高温になる事が少ない故に、冷房など完備されていない各宮は、何処もサウナのように蒸し暑かった。


でも、人間のデスマスク様や私は、まだマシなのだろう。
暑ければ扇ぐ事も出来るし、薄着にもなれる。
だが、猫ちゃん姿のシュラ様とアイオリア様では、そうはいかない。


「ミー……。」
「ミミャア……。」


すっかり元気を無くしてしまっている。
キャットタワーを上り下りする事もなければ、部屋の中を走り回ったり、飛び跳ねたりもしない。
一番日陰の涼しい場所を捜し当て、床石にお腹をくっ付けた状態で、手足を長く伸ばして寝そべっている。
特に、クリクリもふもふ毛のアイオリア様は辛そうで、短毛のシュラ様よりも体力が奪われている様子。


「猫ちゃんといえど、このままでは熱中症になりかねませんよ。」
「つってもなぁ。出来る事と言やぁ、パタパタ扇いでやるくらいしかねぇし。」
「せめて冷房という素敵な電化製品があれば良かったのですが。」
「ンな事、嬢ちゃんに文句言えよ、アンヌ。グラード財団の金で、全宮に冷房完備してくれ〜、ってなぁ。」


そんな事、恐れ多くて言い出せる訳がない。
寧ろ、私如きが願い出るよりも、黄金聖闘士であるデスマスク様が嘆願した方が、すんなり聞き入れてもらえるのでは?


「アホか。俺が言い出して、聞き入れるワケねぇだろ、あの頭の固ぇ嬢ちゃんが。」
「また、そのような事を仰って……。」


次第にデスマスク様の言葉に突っ込みを入れる事すら辛くなってくる、それ程の暑さだ。
私自身がグダッとしながら、気力だけでパタパタと団扇で猫ちゃん達に風を送る。
あ、この団扇は以前、紫龍くんに貰ったもの。
シッカリと役に立っています、ありがとう、紫龍くん。


「とはいえ、そろそろ団扇では限界です……。」
「なら、アンヌ。隣の宮にでも行って来いよ。涼しいぜ、あそこなら。」
「無理です、死にます、確実に。」


ただでさえ日光に弱い私だ。
こんな暴力的で破壊的な日光の下に出ていったら、ものの数十秒、いや一瞬であの世逝きです。
デスマスク様のお力を借りずとも、余裕で黄泉比良坂まで辿り着けそう。


「なら、皆で黄泉比良坂にでも逝くかぁ。涼しいぜ、あそこはよぉ。」
「遠慮します。だって、そこ、生きたままでは行けないですよね?」
「そりゃ、そうだ。」


いやいやいや。
カラカラと笑っている場合じゃないでしょう。
私は兎も角、猫ちゃん姿のシュラ様とアイオリア様は、本気で死にそうですよ。
デスマスク様に連れて行ってもらう以前に、もう黄泉比良坂に片足突っ込み掛けていますよ。
グッタリ伸びきった猫ちゃんから、魂が半分抜け出ていますもの。


「このくらいで死にそうなンて、鍛錬が足りてねぇンじゃねぇのかぁ?」
「聖闘士と猫の身体は違いますから、一概にそうとは言えないかと……。」


呆れた言葉を漏らしつつ、デスマスク様は身を屈めて、身動き一つせずにグッタリしているシュラ様の小さな頭を突っ付く。
いつもは嫌がって抵抗する悪戯にも、シュラ様は一向に反応しない。
これは本当に本気で重症だわ。
そう思った、その時。
パタンと小さな音が響いて、誰かがこの部屋へと入ってきた事に気付いた。





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