「……涼しい。」
「だろ。ココならアンヌでも楽に過ごせる。」


次に飛行機が降り立った場所は、日本の中でも北の方に位置する土地のようだ。
湿度が高く茹だる様な暑さのトウキョウと違い、ここはカラッとしていて、強い日差しの下でも、あまり暑さを感じない。
だからといって、迂闊に日光に当たる訳にはいかないけれど。


「日本といっても北と南では随分と気候が違うからな。この辺りは亜寒帯に属するから、夏でも比較的涼しいのだろう。」
「何だか、日本というよりはカナダにでもいるようですね。」


気候とか、山とか森に生えてる木の感じとか、あと建物の外観も日本らしさはなく、それこそカナダか北欧に似ている。
日本も北の方では、こんなに涼しいのね。
空港から目的地へと向かう車の中――、迎えに来ていたこの車も驚きの豪華さで、どうにも落ち着かなくて、私は窓の外ばかりを繁々と眺めていた。


辿り着いたのは山奥というか、豊かな自然が広がる静かな湖畔の別荘だった。
どうやら、この辺りは高級リゾート地であるらしく、その湖を囲んで大きな別荘がアチコチに点在している。
そのなかでも一際大きな、というか、格別に巨大な別荘の前に、今、私達は立っている。
車から降りた私は、ただただ目を見開いて、その巨大な別荘を見上げていた。


「口が開いたままだぞ、アンヌ。何をそんなに唖然としている?」
「だ、だって、こんな大きな別荘に連れてこられて、吃驚しない訳ないじゃないですか! 大体、何なのですか、ココは?」
「ココか? ココは城戸家の別荘だ。」


そうでしょうね、そうだと思いましたよ!
でも、こんな豪華な別荘を気軽に借りてしまうなんて、やっぱりシュラ様の神経の太さには吃驚です。
しかも、別荘の前に、使用人さん達がズラッと勢揃いして待ち構えているのが見えている。
あんな光景を見せられて、怯まないなんて無理です、無理!


「無理と言われてもな。今日のアンヌは、謂わばゲストだ。世話をする方ではなく、世話をされる方なのだぞ。」
「そんな事、言われても無理なものは無理です。本来なら、私はあちら側に並んでいる身なのですから。」
「だが、今日のお前は……、いや、今日だけではない。今のお前は、俺の妻だ。山羊座の黄金聖闘士の妻として、それなりに振る舞わなければならん。」
「でも……。」
「でも、ではない。アンヌ、お前は俺に恥を掻かせるつもりか?」


私にだけ聞こえるように耳元に囁かれた言葉だったが、その言葉の鋭さに身体がビクッと震えた。
そうね、シュラ様の言う通りだわ。
彼のパートナーである私が、城戸家の使用人さん達の前で、従者のような振る舞いなどしたら、彼が恥を掻くだけだもの。
ここは毅然と、シュラ様に相応しい淑女のように――。


そうは思っても、慣れない振る舞いは緊張もするし、肩も凝る。
折角の休暇だというのに、私はひたすら居心地が悪いばかりだった。





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