「出来たぞ。」


扉の隙間からヒョイと顔だけ出して、そう告げたシュラ様に、「早く来い。」と催促されて、私達はダイニングへと向かった。
キッチンから巨大な皿を両手に掲げたシュラ様が現れ、その背後からは小皿やカトラリーを乗せたトレーを持ったアイオリア様が現れる。


「あ、手伝います、私。」
「良いから、座れ。」
「でも……。」
「気にするな。用意は俺たちがするから、アンヌも、デスマスクも、アフロディーテも、座って待っていてくれ。」


ぶっきら棒に突き放すシュラ様をフォローするように、気遣いの言葉を掛けてくれるアイオリア様の顔には、苦い笑みが浮かぶ。
ここは言われた通りにしておきましょうか。
余り反発をすると、シュラ様が益々、不機嫌になりかねないですからね。
それに、ダイニングを満たすお料理の良い匂いに、先程からお腹がグーグーと鳴っている事ですし。


「おー、美味そ。」
「出来立てだしね。」
「焼き立てホカホカのトルティージャ、早く食べたいです。」
「お前がそう思うだろうと、作った。」


私が彼の作るホクホクお芋のトルティージャが好きだと知っていて、シュラ様はコレを作る事にしたのだろう。
言葉足らずだから、上手く伝わらないんですけどね。
それにしても、このニンニクのスープも、海老のアヒージョも、綺麗に焼けたお肉も、みんな美味しそう。
シュラ様とアイオリア様が着席すると、待ってましたとばかりにデスマスク様がお料理に手を伸ばす。


「あ〜、スープが沁みるわ〜。」
「このサラダ、ドレッシングが美味しいね。」
「そりゃ、この前、俺が大量に作ってお裾分けしたヤツだわ。」
「何だ、蟹のお手製か。褒めて損したよ。」


いつものクスリと笑える遣り取りを目の前に、私はお目当てのトルティージャをお皿に盛った。
フワリと上がる湯気、卵とお芋の良い香り。
パクリと一口、フォークを口に運んだところで、ジッとこちらを見ているシュラ様に気付いた。


「……どうかしましたか?」
「いや。美味いか?」
「はい。お芋がホックホクで、とっても美味しいです。」
「そうか、良かった。」


フッと零れる笑み、いつものシュラ様の魅力的な笑み。
猫ちゃん姿の時の、あの小憎らしさを含んだ可愛らしさも捨て難いけれど、やはりシュラ様は、今のシュラ様が一番です。
それでも……。


「ちょっとだけ失礼します。」
「……何だ、アンヌ?」
「いえ、ホンの少し……。」


何となく名残が惜しくて、シュラ様の髪の毛に手を伸ばした。
そして数回、ワシャワシャと撫でる。
黒猫ちゃんの、あの艶々な毛並みが忘れられないと言いますか、ね。
こんなに突然、元の姿に戻ってしまうなら、触り納めじゃないですが、最後にいっぱい撫で回しておけば良かった……。


「猫の毛と俺の髪では、触り心地が違い過ぎると思うが。」
「そうですね。確かに、そうでした。」
「ンなモン、触りたけりゃ、アッチのを触りゃイイじゃねぇか。」
「アッチの?」
「カプリコの事だろう。」


あぁ、今もマイペースにリビングのキャットタワーの上で寛いでいるカプリコちゃん。
そうか、あの子が居れば、艶々な猫毛ロスにはならないかも。
ただし、カプリコちゃんを撫で撫でするには、頻繁に獅子宮に足を運ばなければならないですけれど。





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