――ガッシャン!
――バッシャン!


「うわっ?! す、すまん! どうもこういう作業は慣れなくて……。」
「構わん、気にするな。お前はコッチをやってくれ。」
「あ、あぁ……。」


キッチンから聞こえてくるのは、シュラ様とアイオリア様の声と、凄まじい物音。
とても料理をしている音とは思えない。
何と言うか……、慣れないお父さんが日曜大工でもやっているような物音なのですが。


「だ、大丈夫でしょうか、あれ。」
「大丈夫だと思うよ。あのアイオリアといえど、料理の手伝いくらいは出来るさ。どうせ殆どを作るのはシュラなんだし。」
「オマエねぇ。アンヌが心配してンのはヤツ等の事じゃねぇよ。自分の大事な大事な仕事場、使い勝手の良いキッチンが破壊されねぇかと、ヤキモキしてンのさ。」


図星です、大いに。
シュラ様達御自身は火傷くらいしたところで、多少の傷なら平気でしょうから。
それよりも何よりも、愛用のお料理道具が壊されてしまっては、元も子もない。
たった一回のお礼のために、これから毎日続くシュラ様への三食が疎かになっては困りもの。


「そんなに気になるなら、覗いてきたら? キッチンを。」
「追い返されますよ、絶対。」
「俺等に出来ンのは、ヤキモキする事だけってな。ま、ゆっくり待てってこった。」


ゆっくり待ちたいのは山々ですけど、気になるものは気になるのです。
例え、お料理道具を壊されなくとも、あのシュラ様の事。
お料理を終えた後のキッチンは、とっても凄い惨状に違いない。
片付けない、散らかしっ放し、ゴミはそのまま、洗い物は放置。
片付けられない症候群でゴミ屋敷の主だったシュラ様ですからね。
あぁ、心配です、心配です。


「ンな、心配ばっかしてたら禿げるぜ。気楽にやれよ。」
「禿げません! デスマスク様じゃないんですから!」
「あぁ?! 俺のドコが禿げだ?! 禿げてねぇし! 全然、一切、全く!」
「キミの額は確かに怪しいよね。まだ禿げてなくても、近々、禿げるかもね。聖衣のヘッドパーツは髪には優しくないから。汗で蒸れるしさ。額の辺りは特に擦れるし。」
「うっせー、うっせー! 気のせい、気のせい!」


そう言って話を途切れさせると、デスマスク様は辺りをパッパと片付け始めた。
リビングに散乱している猫ちゃんの玩具に、猫ちゃん達がじゃれ付いていた毛糸の玉。
潜って遊んでいた紙袋に、乗っかって寝ていた猫用クッション。
それに、部屋の端に積まれていた猫缶と、猫のトイレまで片付けていく。
う〜ん、流石に手際が良いですねぇ。
などと、デスマスク様の片付け上手っぷりに見惚れている暇があるなら、私も片付けを手伝わなきゃ。


デスマスク様と私で、部屋を元の通りに片付け、シュラ様達が猫ちゃんだった痕跡を無くしていく。
それを椅子に腰掛けて、優雅に眺めているだけのアフロディーテ様。
やはりというか、彼は一切、こういう事は手伝わないんですね。
そうこうしている内に、フワフワとキッチンの方から漂ってくる良い匂い。
シュラ様達からのお礼のお料理が、もう直ぐ出来上がりそうだと分かると、私のお腹がグーッと小さく鳴った。





- 8/11 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -