おおっ、これは美味しそうなカボチャですね。
下拵えと思って蒸してみたけれど、このまま食べても良さそう。
スプーンで掬って、ちょっとだけ味見……。
うん、甘くて、ホックホク。


「何かを作る時間も惜しいんで、もうこのまま食べちゃったらどうですか、シュラ様?」
「ミミャッ!」
「手ぇ抜くなって怒ってンぞ、コイツ。」


カボチャの蒸しパンを作ろうと籠ったキッチンに、シュラ様を抱っこしたデスマスク様が入り込んできた。
丁度、蒸しカボチャの味見をしているところだったので、そのままスプーンを黒猫ちゃんの口元に運んだが、それを拒否して首をブンブンと振るシュラ様。
でも、別に手を抜こうとか思っている訳じゃないですよ。
このカボチャが、とても美味しかったので、そのまま食べるのも良いかなって。
手間も省けますしね。
駄目だった時にも、直ぐに次の方法に移れますし。


「ミミッ、ミイッ。」
「アイオリア様は、このまま食べても良いですよね?」
「ミー。」
「ほら、アイオリア様は良いって言っていますよ。」
「アイオリアはなぁ。オマエの作ったモンなら、何でも美味いって食うンだろうからなぁ。」


ヒョコヒョコとキッチンへ入ってきたアイオリア様を手招きで呼び寄せ、頭を撫でて上げると、嬉しそうに鳴き声を上げる。
さぁ、煩い外野の声は無視して、パクッといっちゃいましょうか、パクッと。


「ミッ! もごっ、むぐむぐ……。」
「美味しいですか? どうですか?」
「もごもご……。」
「何も変わらないみたいだね。」
「な〜ンにも変わらねぇなぁ。」


いやいや、でもでも。
前の時も、カボチャを食べてから元の姿に戻るまで、ちょっと間がありましたよね。
だったら、今回も少しは待たないと駄目ですよね。


「はい。じゃあ、シュラ様もどうぞ。」
「ミミャッ!」
「あぁ? 嫌だぁ? 我がまま言ってンじゃねぇよ。オラ、食え!」
「ミギャッ!」


いや、ちょっとデスマスク様。
そんな無理矢理に食べさせても……。
ミギャミギャと悲鳴のような声を上げて身を捩るシュラ様。
それをガッチリとホールドしたまま、無理に口の中へスプーンを突っ込もうとするデスマスク様。
何でしょう、動物虐待ですか、これ?
すっごい嫌がってますけど、本気で嫌がってますけど。
あーあーあー。
シュラ様ったら、デスマスク様の顔を爪で引っ掻いていますよ。
あれ、後でかなりの報復を食らうんじゃないですか?
と言っても、そんな簡単にやられるシュラ様じゃないですけれども、ね。


「むがが、もがもが……。」
「お〜、食った食った。ほら、早く飲み込め〜。」
「もごご、もごっ……。」
「だ、大丈夫ですか、シュラ様?」


もごもご、ゴックン。
細く長い首が隆起して、飲み込んだカボチャがシュラ様の胃袋へと落ちていく。
その様子を、息を飲んで見守る私達。
だが、黒猫姿のシュラ様は、黒猫のままで変わりない。
アイオリア様も、もふもふな猫ちゃんのままだ。


「ミッ!」
「ミミャッ!」
「あ、あれ? シュラ様? アイオリア様?」


パタパタッ!
トテテテテッ!


突然、ピッと背中を伸ばして走り出す猫ちゃん二匹。
連れ立ってキッチンを出て行きましたが、これって、もしかして……。


「ちょっと待ってろ、アンヌ。俺が見てくる。」
「あ、でも……。」
「元に戻ンのを、オマエには見られたくねぇだろ。前もそうだったしなぁ。」


そう言って、デスマスク様は猫ちゃん達の後を追って、キッチンを出て行った。
が、直ぐに引き返してきた彼は、ワシワシと髪を毟っている。


「……どうでした?」
「いやぁ、スマン。ただのションベンだったわ。猫のトイレにまっしぐら〜、ってな。」
「オシッコ、ですか……。」


そうですか、残念です。
ただの生理現象でしたか。
やはりカボチャが解毒薬だなんて、短絡的な考えでしたね。





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