バタバタッ!
ワサワサッ!


「こらこら暴れるんじゃない。」
「ミミャッ!」
「そんなに言う事を聞かないなら、似非坊主の館に放り込んでしまうよ。良いのかい?」
「ミミッ?!」


それまで手足をバタつかせ、アフロディーテ様の腕から何とか逃れようとワタワタ暴れていた猫ちゃん二匹の動きが、その一言によってピタリと止まった。
凄い効き目……。
でも、似非坊主というのは一体、誰の事でしょうか?


「当然、シャカの事さ。二匹纏めて処女宮の中に放り込んできたら、どうなるだろうね? 説教を食らうか、説法攻撃に遭うか、取って食われるか……。」
「そ、それは非常に怖いような気がします……。」
「ミ、ミミャ……。」


何がどうという訳ではないですが、怖いです。
確実に怖いです、とっても怖いです。
猫ちゃん達もブルブルと本気で震えている様子を見るに、アイオロス様の恐怖のお仕置きよりも、シャカ様の謎の威圧感の方が余程怖いのではないでしょうか。


「二人共、ちゃんと反省したかい?」
「ミャッ。」
「ミミッ。」
「なら、アンヌがお茶し終わるまでは、邪魔するんじゃないぞ。」
「ミャッ。」
「ミミッ。」


アフロディーテ様が床に猫ちゃん達を、そっと下ろす。
パタパタと控えめに駆けていく猫ちゃん。
彼等は、それぞれが先程まで遊んでいた玩具に辿り着くと、再びソレ等にじゃれ付いて遊び始めた。


「やっと大人しくなった。大変だね、アンヌは。」
「それも私の役目ですから……。それにしても、いつになったら人間の、元の姿に戻れるのでしょうね?」
「う〜ん、そうだなぁ……。私の予想では、もう元に戻っている筈だったんだけどねぇ。」


朝どころか、今やもうお茶の時間、オヤツの時間です。
まさか、このままもう一晩を過ごすなんて事にはならないですよね?
流石にそれはキツいです、体力的にも、精神的にも。


「ならないとは言い切れない。何が起こるか分からないのだからね。そもそも、再び猫化したのだって想定外だったんだから。」
「そうですよね……。」


溜息が零れ落ちそうになるのを堪えて、マフィンを口に運ぶ。
温かな紅茶と甘いマフィンで、ある程度お腹が満たされると、下降気味の気分が少しだけ上向きになった気がした。


「……よぉ。いるかぁ?」
「おや? デスマスク、どうしたんだい?」


噂をすれば何とやらで、見た目とは裏腹に、実は一番大人なデスマスク様が登場。
昨日、アフロディーテ様にシュラ様達の世話を押し付けて帰ってしまった経緯からして、もう磨羯宮には姿を現さないのではないかと思っていたんですが。


「どうしたって、気になって来てみたンだよ。悪ぃか?」
「別に悪くはないけど。そんなに心配なら、最初から育児放棄なんてしなきゃ良かったのに。あ、育児じゃなくて育猫か。」
「あ? ンだよ。その育猫ってのは?」


育猫……。
専ら育てるよりも、監視が第一なんですけどね。
暴れますから、この凶暴な猫ちゃん達は。
暴れて、喚いて、喧嘩して、大騒ぎ。
人の姿のシュラ様とアイオリア様の時は、まぁ、多少の張り合いはしても、こんなに激しくはなかった。
猫ちゃんになると、どうして、こうも歯止めが効かなくなるのでしょう。


「ま、所詮、猫だからな。本能の儘に動くようになンだろうぜ。」
「そうだね。元が気儘だからね、シュラは。アイオリアは負けん気が強いし。本能の儘に動いたら、ぶつかり合うのは仕方ないんじゃない?」
「ホント、面倒なヤツ等だな。」


床の真ん中にドッカリと座り込んだデスマスク様は、直ぐ傍で遊んでいたシュラ様の小さな頭を指の関節で小突く。
軽い痛みに、「ミャッ!」と不機嫌そうな声を上げる黒猫ちゃん。
だが、それよりも何よりも。
私は、しゃがみ込んだデスマスク様が左腕に抱えた『あるもの』に釘付けだった。





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