「はい、アイオリア様。あ〜ん。」
「ミッ。」


パクッ。
むぐむぐ、もしゃもしゃ。
なでなでなで。


「ミミッ。」
「もっとですか? じゃあ、もう一つだけですよ。あ〜ん。」
「ミッ。」


パクッ。
むぐむぐ、もぐもぐ。
なでなでなで。


「アイオリア様は、むぐむぐ食べている姿が可愛いですよね。ずっと眺めていたいです。」
「アンヌ。浸っているトコを悪いけど、シュラが毛を逆立てて怒ってるよ。」
「ミミャー!」


はっ?!
つ、つい、アイオリア様のほんわかほわほわしたオヤツ姿に見入ってしまいました。
だって、ほら、頭を撫で撫ですると、毛がふわっふわで気持ち良いのですよ。
気持ち良くて手が離せなくなるというか、ずっと撫でていたくなるというか……。


「シャー!」
「そろそろシュラにもオヤツ上げないと、そのうち聖剣を振り回し始めるよ、コイツは。」
「ミギャー!」
「す、すみません……。」


アイオロス様がグリグリと小さな頭をちょっと乱暴に撫で上げると、更なる唸り声を荒げるシュラ様。
元より鋭い目を一層、尖らせて。
ギロリ、アイオリア様を睨み付けている様子を見るに、このままじゃ、また喧嘩になってしまうかも。
溜息を吐きつつ、私はシュラ様に近寄って、そっと抱き上げた。
アフロディーテ様はテーブルから一歩も動かず、呆れた目で私達を見下ろしながら、紅茶を優雅に飲んでいる。


「ミミャー!」
「そんなに怒らないでください。元はと言えば、シュラ様が悪いのですから。」
「ミギャッ。」
「アイオロス様の隙を突いて攻撃などと、そんな悪い事をするからです。」
「ミギャギャッ。」


どうにも機嫌が収まらないので、半分、無理矢理に口の中にササミを突っ込んだ。
人間の時もそうだったが、シュラ様の機嫌が悪いのはお腹が空いている時が多い。
ならば、何か少し食べれば不機嫌も収まるだろう。
少々、荒っぽいやり方ではあるけれど。


ガブッ!
ガツガツ、ムシャムシャ!
ゴクンッ。


「ミミャー!」
「は、早過ぎます。もっと良く噛んで食べないと……。」
「ミャー!」
「もっとくれって言ってるようだけど?」
「仕方ないですねぇ……。」


バクッ!
カッカッカッ、ムシャグシャ!
ゴクンッ。


「ミャッ!」
「ええっ?! もう飲み込んじゃったんですか?!」
「ミミャッ!」
「相変わらず食い意地が張ってるねぇ、シュラは。」


で、でも、この人。
私が磨羯宮に来るまでは、その辺りに転がっているキュウリを丸齧りしたり、生卵をそのまま丸飲みしたりとかしていたんですよ?
食生活には何ら頓着していなかった人ですよ?


「それは自分で作るのが面倒臭いだけで、作るとなれば美味しいものをガッツリと作るし、食べるとなると、もっとガッツリ食べる。それはキミも見て、接して、良く知っているだろう、アンヌ?」
「まぁ、そうですけれど……。」


その面倒臭いからしない、面倒臭くないから(気が向いたから)する、その気分の違いというか、スイッチの入り方が分からなくて、今でも苦労するんですが。
というか、私がココに住むようになってからは、ほぼ御自分では何もしようとしないのですが。
聖衣のマントをアイロン掛けする以外は。


「それはキミが何もかもやって上げるからだろう? 甘やかしているのがいけない。」
「そうは言っても、私がしなければ、その辺りに放置しっ放しです。」


そして、いらぬ物が次々に溜まりに溜まり、積み上がって、重ねられて、占拠されていって、あのゴミ部屋が出来上がるのです。
しかも、ホンの数日間の内に。
そう呟くと、アイオロス様、アフロディーテ様の両方から「う〜ん……。」と唸り声が響いた。





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