ミャミャミャッ。
ガサガサガサッ。


「さっきまで怒っていたのに、何だか御機嫌だね、あの黒猫は。」
「お腹が満たされて満足したのでしょう。シュラ様の機嫌の悪い時は大体、空腹の時ですから。」
「でもさ。早速、ゴミ屋敷を作り出してるようだけど。」


猛スピードでオヤツを食べ終えた黒猫ちゃんは、げふっと豪快に飛ばしたゲップと共に不機嫌も吹き飛ばしたのか、楽しげに部屋の中を徘徊し出した。
そして、見つけたのは、昨日、デスマスク様が用意してくれた猫ちゃんの玩具などが入った紙袋。
部屋の隅に置いていたのを目敏く発見し、思い切り飛び付いて紙袋を倒し、その中を漁り始める。


「こうして見てると、本物の猫だよね。行動も性格も。」
「元が猫っぽいですから、シュラ様は、自己中でマイペースで。」
「アンヌ。それ、ズバリ『我が儘』って言ってるのと同じ事だよね。」


本物の猫ちゃんのカプリコちゃんの方が余程、人間っぽいです。
あれだけワーワーギャーギャーと部屋中が騒がしかったのに、悠々ノンビリとキャットタワーの上でお昼寝をしているカプリコちゃん。
あの切れ長の綺麗な瞳で、私達の事を冷めた目で見下ろしてそう。
人間って騒がしい生き物ね、なんて思いながら。


「ミャミャッ。」
「ミッ、ミミッ。」


そこにアイオリア様も加わり、アレコレ物色した後。
シュラ様は毛玉を模した鞠のような玩具を、アイオリア様はネズミ型の玩具を咥えてブンブンと振り回し、楽しげに遊び始めた。
本当に猫ですね、完全に猫ですね。


「ところでアイオロス。キミ、執務に戻らなくても良いのかな?」
「……ん?」
「サガが、まだ書類が山積しているって言ってたけど?」
「んん〜? 聞こえないなぁ。」


現実逃避を始めましたね、アイオロス様。
行きたくないのも分かりますし、猫ちゃん達と戯れていたいのも分かりますが、教皇補佐ともあろう人がそんな態度では、色々と問題なのではないですか。


「ちなみに、さっき、サガには小宇宙通信で連絡しておいたよ。アイオロスが目覚めたから、ティータイムが終わったら、直ぐに応援に行けるんじゃないかって。」
「んん〜? 何を言っているのか全く聞こえないなぁ。」
「この後に及んで聞こえないフリとは……。」
「もしや、黒猫シュラ様の『人間の言葉は分かりません。』風に首を傾げる、あの可愛らしい姿を真似しているのではないでしょうか。」
「あれは猫の姿だから可愛いのであって、普通にそれをされても、可愛いどころか腹立たしいだけだ。」


しかも、アイオロスだよ、あの小憎らしさ感では群を抜く、ムカつく度が聖闘士筆頭の。
そう吐き捨てて、アフロディーテ様は目を細めた。
こ、これは、余り引き延ばしが過ぎると、部屋の中に薔薇の園が出現してしまうのでは……。
ここは一つ穏便に済むよう手を打たなければなりませんね。


「アイオロス様、すみません。お願いがあるのですが……。」
「ん? お願い? アンヌが?」
「はい。教皇宮に差し入れを持っていって欲しいのです。サガ様もムウ様もアルデバラン様も、休憩が必要でしょうから。」


マフィンを幾つかと、保温ポットに入れた甘いミルクティー。
疲れた脳には糖分補給も必要ですもの。
しかし、お遣いに行く場所が教皇宮と聞いて、アイオロス様は不満そうに頬を膨らませた。
そして、膨れ面した彼から、隠しきれない不穏な空気が漂い始める。
それに気付いたのか、玩具に夢中になっていた猫ちゃん達もピタリと手を止め、動きを止めて、こちらの成り行きを見守るかのように顔を上げた。





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