「ミャッ。」
「何ですか、シュラ様? オヤツですか?」
「ミャッ。」


如何にも可愛らしい猫なんだぞと言わんばかりに、甘えた声で擦り寄ってくる黒猫姿のシュラ様。
オヤツのササミが用意されている事が匂いで分かるのだろう。
目をキラキラさせて見上げてくる。
でも、駄目です。
どんなに愛らしい仕草をしても駄目です。


「どさくさ紛れにアイオロス様に攻撃を仕掛けておいて、知らん振りは駄目ですよ。ちゃんと謝ってください。」
「ミャッ?」


人間の言葉など全く分からない猫ちゃんの振りしても駄目です。
キュンキュンする程に可愛らしく小首を傾げてみせても駄目です。
駄目ったら駄目です。
向こうで切れた手の平をフーフーしているアイオロス様に謝るまでは、オヤツなしです。


「でもさぁ、アンヌ。仕方ないんじゃないか? どさくさにでも紛れないと、あの最凶魔神には一矢報いる事も出来ないんだし。」
「それでも、余りに卑怯ではないですか。可愛い猫ちゃんの姿で油断させておいて、一撃食らわせるだなんて。」
「そうだぞー。相手して欲しいって言ってくれれば、いつでも受けて立つのに。シュラも、アイオリアもさ。」
「ミミャッ!」
「ミミイッ!」


ニコリと満面の笑みで振り返りつつ放ったアイオロス様の言葉に、ビクッと小さな身体を震え上がらせる猫ちゃん達。
そして、二匹共に涙目になって、フルフルと首を左右に振る。
そんなに嫌なんですね、怖いんですね、アイオロス様が。


「見ただろ? 黄金の中でも比較的武闘派の二人ですら、こうなんだからさ。一発食らわせたいなら、どさくさに紛れるか、寝首を掻くくらいしか方法がないんだ。」
「ヒドいなぁ。人を悪魔か何かみたいな言い方して。俺だって皆と同じ黄金聖闘士なんだけど。」
「いっそ悪魔であって欲しいよ。同じ人間なのに、キミだけ意味不明に強過ぎるのはおかしい。」


強い諦めの色を滲ませた声でそう言うと、アフロディーテ様はミルクティーをゴクリと飲み下し、ホッと息を吐いた。
猫ちゃん達からは、「ミャッ!」、とか「ミミイッ!」とか、強い同意の鳴き声が上がっている。
不思議そうな顔をしているのはアイオロス様だけ。
どうやら、この人は自分の尋常ではない強さを理解していない御様子。


「はいはい、分かりましたから。アイオリア様は兎も角、シュラ様はちゃんとアイオロス様に謝ってください。そうしたらオヤツを上げます。出来ないなら上げません。」
「ミミャッ!」
「もう諦めなよ、シュラ。アンヌは意外に頑固だって、キミも分かってるだろう? パパッと謝って、美味しくオヤツを食べる方が良いんじゃないの?」
「ミッ、ミミッ。」


ほら、アイオリア様も「そうだ、そうだ。」って言っていますよ。
いつまでも謝らないのなら、シュラ様だけオヤツ仲間外れですね。
ササミ全部、アイオリア様に上げちゃいますけど、どうします?


「ミャ……、ミミャッ。ミミャミャ……。」
「お、シュラ。謝ってくれるのか? そうかそうか〜。偉い偉い〜。」
「ミギャミミ……。」


アイオロス様の横に近寄っていき、渋々、頭を下げたシュラ様。
そんな可愛らしい黒猫ちゃんの仕草を見て、すっかりメロメロになったアイオロス様は、シュラ様が嫌がっているのも気にせずにグリグリと小さな頭を撫で擦った。





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