「……で?」
「ん?」
「はい?」


半裸のままで何の気にもせずにストンとソファーに腰を下ろしたアイオロスが、当然と言わんばかりに口を開く。
一瞬の間。
のち、意味が分からず問い返す声が二つ。
アフロディーテ様と私の。


「だから、何の騒ぎだったんだい? って聞いてるんだけど。」
「あ、あぁ……。ちょっと猫共が粗相をしてね。それでさ。」
「粗相? アイオリアがオシッコでも漏らしたか?」
「ミミー! シャー!」


そんな事あるものか!
と、怒りを滲ませた唸り声を上げるアイオリア様だが、私の足首の陰に隠れたままの怒声では、何ら迫力も感じない。
アイオロス様に抗議するつもりなら、せめてもう一歩だけ前に出た方が良いんじゃないですか?
顔だけヒョコッと出していても、可愛いだけで怖くとも何ともないですよ?


「ミ、ミイイッ。」
「何だ、アイオリアじゃないのか? じゃあ、またシュラが悪さでもしたのかな?」
「いや、う〜ん……。何かしたかといえば、アイオリアの方なんだけどさ。」
「アイオリア様がシュラ様を窒息させようとしたんです。」
「ミッ?! ミミイッ?!」


真実を暴露されて焦るアイオリア様。
ジリジリと後退りして、この場を離れようとしている。
が、アイオロス様から逃げるなんて不可能だった。
彼は目にも止まらぬ早さで移動し、アッサリと猫ちゃんの首根っこ掴んで、その手に捕まえてしまった。


「ミミッ! ミー! ミー!」
「ん〜? 何を悪い事したんだ、アイオリア? 兄ちゃんは、そんな悪い子にアイオリアを育てた覚えはないぞ〜?」
「ミー! ミミー!」


悲痛な鳴き声がこだましているけれど、相手があのアイオロス様ですからねぇ。
とても助けて上げられそうにないです、すみません。
そもそもアイオリア様がシュラ様の頭を踏み付けたりするからですよ。
うん、仕方ない。


「さて、アイオリア。『高い高い』のお仕置きと、『回る回る』のお仕置き、どっちが良い?」
「ミッ、ミミッ、ミイイ……。」


涙目で首をフルフルと左右に振る猫ちゃん。
う〜ん、流石に可哀想になってきました。
少しの時間稼ぎくらいなら、私でも何とか出来そうだけれど……。
その間に脱出とか出来ます、アイオリア様?


「あの、『高い高い』のお仕置きとは?」
「ん? 『高い高い』は、俺の全力でもって空に向けて放り投げるのさ。」


それって成層圏まで行ってしまいそうな気がするんですけど。
それ以前に、磨羯宮の天井に穴が開いてしまいそうです。


「で、では、『回る回る』は?」
「アイオリアの足を掴んで、光速でジャイアントスイングだな。」
「あ、それ。ちょっと違うけど、私がさっきシュラにやった。腕を掴んでグルグル回すのを。」
「そうか〜。じゃ、アイオリアには『高い高い』だな〜。」


その自己申告は無意味じゃないですか、アフロディーテ様?!
しかも、その申告のせいで、より危険なお仕置きの方に決まっちゃったじゃないですか!
どうするんですか、これ?!


「もし天井に穴が開いてしまったら、アフロディーテ様が弁償してくださるんですよね、勿論。」
「私が弁償? 何で?」
「大丈夫、アンヌ。ちゃんと外に出て『高い高い』するか……、あっ!」


――ガリッ!


「痛っ! アイオリアに引っ掻かれた!」
「シャー! キシャー!」


隙を見てアイオロス様の手を引っ掻いたアイオリア様が、脱兎の如くに部屋の中を逃げ出した。
グルグル、バタバタ。
再び捕まってなるものかと形振り構わずに逃げ惑う猫ちゃんは、ヒョイとソファーから飛び跳ねて着地した瞬間。
先程、部屋を荒らした際に床に落ちたのであろう『何か』を、バキッと踏み付けていた。





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